外側翼突筋上頭は、顎関節の関節円板に付着し、開口に応じて関節円板を前方に移動させる
主役となる。このような力が加わっても、正常な関節円板では、後部付着装置が支えているので、前方にズレることはない。しかし関節円板の位置がずれる原因の一つに、外側翼突筋上頭の過緊張があるとする見解もあり、この筋への刺針は、顎関節症Ⅲ型への鍼灸治療の適応があるかもしれない
関節円板のズレを診察するには、患者の両耳穴に検者の示指を入れ、口の開閉を指示する。正常であれば何も変化が起きないが、ズレがあれば検者の指先にコ
キンとした感じの関節円板のズレを触知できる
なおトラベルは、外側翼突筋のトリガーと関連痛の関係を記している。
外側翼突筋下頭に刺入するには、下関からの深刺直刺(浅刺では咬筋刺激)を行い、外側翼突筋上頭へ刺入するには、客主人を刺針点とし、針先を耳門(顎関節部)方向に斜刺深刺する
どちらも、この状態で口の開閉の運動針を行うとよい
4)顎二腹筋後腹に対する天容刺
顎を後下方に回転させるのは顎二腹筋の働きである。顎二腹筋が緊張すると、顎の下部分にコリや痛みを感じる。
位置:下顎角の後で胸鎖乳突筋の前縁に天容をとる(下翳風とする見解もある)
刺針:胸鎖乳突筋前縁を通過し、顎二腹筋後腹に入れる。刺入は約2㎝。
5)顎二腹筋前腹に対する廉泉外方刺
廉泉穴(任脈上)を。喉頭隆起上際で舌骨との間にとる。そのやや外方に顎二腹筋前腹を触れる。その筋に対して約2㎝刺入。顎二腹筋前腹は、三叉神経第Ⅲ枝の分枝である下歯槽神経支配。顎二腹筋後腹刺だけで効果不足の時に本刺針を追加する
6)内側翼突筋に対する裏大迎水平刺
内側翼突筋は、咬筋と重なるように配置されている。理論上、下関からの深刺は、外側翼突筋を貫いた後、内側翼突筋中に刺針可能となるが、非常な深刺になり、口腔内に針先が突き出ることも考えられるので、実施は難しい。
そこで裏大迎(下顎角に大迎をとり、その下顎骨裏側に本穴を取穴)を刺針点として、下顎骨内縁に沿わせるように刺針するとよい。
ディスポ手袋を使用して母指で患者の口内に母指を入れ、頬部を母指と示指でつまんで指圧する方法も効果がある。
7)第1~第3頸椎部の施術
咀嚼筋は三叉神経第Ⅲ枝の運動支配である。三叉神経は三叉神経脊髄路として、C1~C3
頸神経から発生しているので、この高さの頸椎異常に対する治療は、顎関節症の治療としても有効であるとされる。
また下顎運動の中心軸が上部頸椎にあると考え、噛み合わせが悪いと上部頸椎が歪むとの考え(=テンプレート療法)があり、上部頸椎の異常を治療する必要性を指摘する者もいる