5)鍼灸治療
刺痛をなるべく与えないよう細針を使い、足底の圧痛点に直接刺針。他動的に足指を反らす動作を数回行い、その後5~10分の置針。抜針後、母趾の強制背屈からの保護を目的とするテーピングを実施。足底筋膜部から直刺すると、短指屈筋・足底方形筋に入る。この2筋は、ともに第2~第5趾の中節の底屈作用なので、上記体位にすると足底筋膜を伸張させるので、
この状態で刺針すると治療効果が増す。
踵脂肪体萎縮(=踵脂肪パッド萎縮、踵脂肪褥炎)
1)概念・症状
踵のクッションである脂肪体が減少し、弾力を失っている状態で、とくに起床時に踵中心部が痛む。脛骨神経分枝の内側足底神経踵骨枝が、踵骨底と床に圧迫されて痛むの
が直接原因。踵脂肪体減少の原因は不明だが、老化や過使用、打撲が考えられている。
※踵骨の前縁部の痛みは、足底筋膜が踵骨に付着する部であり、足底筋膜炎の可能性が高い。
2)治療
安静にして脂肪体の増殖を待つ。対症療法としては、踵部を覆う非伸縮性テーピングで脂肪パッド位置をずれないように保護する。歩行時はさらにヒールカップ、または踵部をくり抜いた靴底を使用し、体重負荷の免減を図る。
3)鍼灸治験
圧痛のあったS1の圧痛点に仙骨部の刺針施灸
下肢の神経麻痺と神経絞扼障害
尖足→腓骨神経麻痺(内反尖足、足関節の背屈↓、足関節の外反↓、鶏状歩行)
鉤足→脛骨神経麻痺(外反鈎足、足関節の底屈↓、足関節の内反↓、踵足)
腓骨神経麻痺
1)総腓骨神経の走行
殿溝中央(承扶)から大腿後側を下行する座骨神経は、大腿後側中央(殷門)~膝関節側1/3あたりで脛骨神経と総腓骨神経に分かれる。
以降、総腓骨神経は膝窩尺側に下降(浮郄・委陽)し、腓骨頭直下(陽陵泉)に回り、長腓骨筋を貫き、外側腓腹皮神経(下腿外側皮膚に分布)を出した後、
浅腓骨神経と深腓骨神経に分かれる。
臨床的には総腓骨神経麻痺は少ない。
①原因:大腿後側部での圧迫・損傷。頻度は少ない。
②運動麻痺:深腓骨神経麻痺症状である下垂足と、浅腓骨神経麻痺症状である内反足が合併し、内反下垂足となる。
③知覚麻痺:知覚麻痺が片外側1/2以上に出現。腓骨頭後方の陽陵泉あたりにチネル徴候出現。
2)深腓骨神経麻痺
①原因:膝窩や腓骨頭直下での長期臥床やギブス固定での圧迫・損傷等で起こる。
②運動麻痺:深腓骨神経は、足関節背屈に働く筋(前脛骨筋・長指伸筋筋・長母指伸筋)を運
動支配する。深腓骨神経麻痺では足関節背屈力低下し、下垂足となり踵立ち不能となる。
下垂足では鶏歩(床に足先がひっかからぬよう大腿を高く持ち上げる)になる。
尖足と下垂足の相違:尖足は脳卒中後遺症時などで、筋が痙縮により足関節が底屈し、固くなった状態。
下垂足は筋が弛緩した結果、足関節が底屈している状態。
③知覚麻痺:知覚麻痺が第1趾~第2趾で、チネル徴候は足背に出る。
3)浅腓骨神経麻痺
①原因:腓骨頭下方3~4㎝あたりでの圧迫・損傷。ブーツやスキー靴による圧迫が多い。
②運動麻痺:浅腓骨神経は、足関節外反に働く筋(長・短腓骨筋)を運動支配、すなわち外反運動に関与する。浅腓骨神経麻痺では、内反足になる。
③知覚麻痺:下腿外側1/2以下に知覚麻痺が出現する。チネル徴候は下腿外側の光明・懸鐘あたりに出る。
脛骨神経麻痺
1)脛骨神経の走行と機能
座骨神経から、大腿後側の膝窩側から1/2(殷門)~1/3の部で分かれた脛骨神経は、まっすぐ膝窩(委中)を通り、下腿後側を下行する。脛骨神経は、足関節底屈に働く筋(下腿三頭筋、後脛骨筋、長指屈筋・長母指屈筋)を運動支配し、また足底を知覚支配する。
2)原因
坐骨神経麻痺に合併する形で生ずるが頻度は少ない。脛骨神経麻痺で最も多いのは、後脛骨神経が圧迫される足根管症候群である。
3)知覚神経麻痺症状:足底に出現するが頻度は少ない。
4)運動麻痺症状
①鈎足(踵足)
下腿後側筋は、主として足関節の屈曲(底屈)に関与する。これらの筋の運動麻痺により、相対的に足は背屈する。これを鈎足(または踵足)ともよぶ。足の底屈困難なことから、爪先立ち不能になる。また地面を蹴ることができなくなる。
②外反足
下腿の内側~深部筋(後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋)は脛骨神経支配であり、足の内反に関与する。これらの筋の運動麻痺時には足は相対的に外反する。