咽頭炎・扁桃炎の鍼灸治療
1.洞刺
人迎穴部には頸動脈洞があり、その血管壁刺針を、洞刺(頸動脈洞刺針
の略)と名づけた。
1)洞刺の術式
①仰臥位。枕をはずし首をやや後に反らす。
②頸動脈最大拍動部を発見する。喉頭隆起の上縁の外側で、胸鎖乳突筋の内縁で、最も
強く拍動を手に触れる処にある。
③この部に寸3#3程度の針で0.5~1.5㎝。少しずつ直刺していき針先を頸動脈上縁に当てる。
当たったか否かは、針柄から手を離した時、針体が脈拍と同じ速さで振動することで判定。
2)洞刺の作用機序と適応症
①圧受容体刺激による血圧降下作用
頸動脈洞には血圧の上昇を感知する圧受容体がある。血圧上昇時には頸動脈血管が拡張し、これを舌咽神経が捉え、延髄の血管運動中枢に信号を送る。すると、この中枢は迷走神経に向けて血管拡張命令を送り、血圧降下が起こるという仕組みがある。
したがって洞刺は、高血圧時に血圧を下げる目的で行われるが、この作用は一過性であり、また10~20mHg程度の低下。高血圧に対する場合7秒置針に留める。極端に降圧する恐れがあるので両側同時に実施しないこと。
②化学受容体刺激による気管支拡張作用
気管支喘息発作時に洞刺を行えば、瞬時に喘鳴が改善して呼吸が楽になるとし、追試すると確かに著効する場合がある。この機序は不明であるが、つぎのように推定できる。頸動脈洞部には、頸動脈小体とよばれる直径1~2㎜の組織があり、血中酸素分圧の低下を感知する化学受容体がある。頸動脈小体における酸素分圧低下という信号もまた、舌咽神経によって延髄の呼吸運動中枢に伝達される。連絡を受けた呼吸運動中枢は迷
走神経を緩めるような命令を出し、気管支拡張すると筆者は推察している。
針で頸動脈洞を刺激すると舌咽神経を刺激するが、これを中枢では頸動脈小体からの信号であると誤認するので、呼吸中枢は血中酸素濃度を増やそうと迷走神経に気管支拡張命令を送るのではなかろうか?
洞刺は気管支喘息の発作時に用いるが、発作時に鍼灸治療院に来院するのは困難である。また現在の気管支喘息の治療は、発作を止めるのではなく、発作に至らないように処置することが主流になった。一方、入院レベルにある気管支喘息者(=肺性心になっている)は、もはや洞刺は効果がないという経験的事実がある。要するに、現在での気管支喘息に対する洞刺の機会は、非常に限られたものになっている。
③舌咽神経痛の鎮痛
舌咽神経は、舌根部~咽頭、外耳道、鼓膜を知覚支配しているので、洞刺によりこれらに鎮痛効果をもたらす。その典型は扁桃炎時であろう。速効しない場合、人迎部に3㎜皮内針を皮下針的に斜刺し固定すると、おおむね24時間以内に鎮痛効果が得られるという。