1.肩こりの定義
肩甲上部、特に僧帽筋肩甲帯諸筋の緊張状態により、自覚的にその部の疲労感、張る感じ、痛 み、鈍麻感を自覚し、圧迫すると痛みがあるか快感を伴うもの。 肩凝り性の有無は、自覚症のみで判断する。実際に肩甲上部周囲の筋のコリの有無は問題ではない
2.肩こりの局所治療と刺激量について
肩こりの局所治療は、コリのある筋自体、およびコリをもたらしている運動神経線維に対する 刺針施灸が広く行われている。 なお、このような肩凝りの局所治療は、患者の針に対する感受性を勘案することは当然である が、太い針によりドスーンとした針響を与える方が効果的になる。すなわち疼痛物質による刺激 伝達の場合、脳は、組織が損傷したことを知り、血液を集めて治そう(=自然治癒力)とするの だが、疲労物質で神経が刺激を受けた場合、それはC線維による刺激伝達なので局在が不明瞭な ので、自然治癒力が働かない状態になっているからである。 そうした場合、コリの部に針を刺入していくと組織が損傷し、細胞から発痛物質が出ることで、 脳は治すべき場所を知り、自然治癒力を働かすことになる
3.筋トーヌスをゆるめる方法
1)末梢からの入力量を減らす 脳幹網様体は、通過する求心性インパルスの数に比例して興奮するので、暗くする、横に なる、静寂、適温などを管理することで、意識レベルを低くする。すなわち就寝前と同じよ うな環境づくりに努める。
2)大脳皮質からの入力量を減らすこと 現代社会に生きている以上ストレスは避けられないが、ストレスを留めず、受け流すこと を心がける
3)筋トーヌスを緩めるための針灸治療 身体にコリや痛みがあると、脳幹網様体へ入る知覚情報が増え、増えると意識水準が上がる ので、緊張状態になる。緊張状態は、筋トーヌスを高める作用があり、それがコリや痛みを増 幅する結果となる。 したがって針灸治療は、まず筋緊張(とくに遅筋に対して)を改善することから始める。具 体的には、痛み刺激に対して過敏な手足末梢部には施術せず、体幹部を中心に、全身的に行う べきであろう。必然的に多取穴刺激となるので、それがストレスとならないように、疼痛を 極力与えない針を心がける必要がある
脳幹網様体について 中脳・橋・延髄を脳幹と総称する。脳幹の内部には、白質(神経線維部分)と灰白質(神経細胞部分) 錯綜構造がみられ、この部を脳幹網様体とよぶ。脳幹網様体には主に、運動調節と意識保持の機能がある
1)運動調節 伸張反射に対する促痛や抑制を行う。末梢や大脳皮質からの情報に応じて、骨格筋の緊張を調整して 姿勢や体位を保つ。体性脊髄反射には、伸張反射と屈曲反射がある。両者の相違点は次のようである。 別称代表的反射説明 伸張反射深部反射膝蓋腱反射元々は関節を固定して姿勢保持の目的。筋トーヌス(脱力時に存在 する筋緊張度)が存在するのは伸張反射の存在による。 屈曲反射表在反射腹壁反射皮膚や粘膜に刺激を与えて筋の反射的収縮を引きおこす現象。本来 は侵害刺激から固体を守る意義がある。屈曲反射が起きている時は、 拮抗筋である伸筋の活動が、弱められ、関節を曲がりやすくする。 膝蓋腱反射を実施する場合、被検者の気をそらして脱力させた状態で行なわないと、反応が現れにくい。 これは脳幹網様体の伸張反射抑制作用である。交感神経緊張状態にある者は、いわば即応体制状態であ って、全身の筋トーヌス亢進しており、部分症状として肩凝りも出現しやすい。この逆で、筋トーヌスが亢 進しているとリラックスできない。 リラックス状態にある者は、いわば休止状態であって筋トーヌスは低下しているのが普通である
2)意識保持 末梢からの種々の感覚刺激を受け取り、無意識下で自己の重要度に応じて情報を取捨選択し、重要な情報 を視床を経て大脳皮質に送る。この時、末梢からのインパルスの量が意識レベルを決定している。インパル スの数が少なくなれば眠気がでてくる。このような場合、体内からの刺激としては大腿筋の運動(歩行)や 咬筋刺激(あくび)が眠気ざましに有効なことが知られている
脳幹網様体を興奮させる代表的な末梢刺激は、体外的には痛みや熱であり、体内的には大腿筋刺激 (歩行、散歩など)や、咬筋刺激(あくび、ガムを噛むなど)である。動物は敵に遭遇した場合、逃 げるか、戦うかのどちらかであろう。逃げるには大腿筋の筋力が必要であり、戦う武器は自己の歯で 噛みつくことである