痛みと伝導路
①一次痛:新脊髄視床路 伝導速度の速いAδ線維(有髄神経)による。脊髄視床路系伝導路の一つ。 新幹線式の速い経路で、大脳皮質感覚野へは視床を介して純粋な疼痛信号のみを伝える。 代表的疾患は捻挫や外傷などの組織損傷を伴う疾患。痛み物質を遊離することで炎症反応 を引きおこし、自然治癒力を惹起させることができる。 針灸治療では、患部組織を針や灸により、よい意味で傷つけることで、自然治癒力を促す 狙いがある
②二次痛:旧脊髄視床路 伝導速度の遅いC線維(無髄神経) による。新脊髄視床路より内側にある 旧脊髄視床路を上行して大部分は中脳 網様体(≒脳幹網様体)に入り、視床 下部や視床を経て大脳皮質全体に入 り、鈍い痛みを伝える。 この痛みの伝導路は,各駅に立ち寄 る普通列車であり、痛み刺激は大脳に 達するまでに情動などからさまざまな 影響を受ける。 また痛み刺激に対して反応が持続的 で、刺激が終わっても長く続く。大脳 皮質に到達しても痛みとして感じるば かりでなく、運動野にまで到着してほ かの感覚も生じる
持続的筋緊張が続くと、筋線維中の血管を圧迫して血流障害を引き起こす。血流障害 は酸素の供給を妨げ、ブドウ糖の不完全燃焼を起こし、乳酸などの疲労物質を生み出す。 血流障害のために疲労物質が洗い流されず蓄積され、筋肉の神経終末を刺激するように なる。このことにより初めて脳は、組織が損傷したことを知り、血液を集めて治そう (=自然治癒力)とする。しかし肩こりのように、疲労物質で神経が刺激を受けた場合は、 局在が不明確なC線維で脳に伝わるため、脳は、痛みの場所がわからず、自然治癒力は働 かない。しかし筋緊張部分に強刺激の針を刺入していくと、組織が損傷し、細胞から発痛 物質が出て、脳は治す場所を認識し、自然治癒力を働かす。要するに、コリに対しては、 強刺激が効果的になる。 二次痛の受容器をポリモーダル受容器とよぶ。ポリモーダル受容器は一次痛受容器の自由神経終末と異 なり、未分化原始的な侵害受容器で、全身の皮膚、筋、筋膜、内臓など広範な組織に存在する。 生体のネガティブフィードバック機構を賦活させ鎮痛をもたらし、その他自律神経系、内分泌系、免疫 系にも強い修飾効果があるとされている
脳幹網様体に働きかける針治療とは
脳幹網様体は、末梢感覚器からC繊維を介して膨大な情報が集まる処で、これを大脳皮質に 伝達する際、自分にとって重要な情報を取捨選択する一種のフィルターである(末梢からのす べての情報を大脳皮質に送るなら、大脳皮質が処理しきれない膨大な情報量となる)。さらに 脳幹網様体を通過する信号量に比例して意識レベルも決定されている。 脳幹網様体を通過する信号は、大脳辺縁系(情動=喜怒哀楽に関係)を経由して大脳皮質知覚 領野に至るので、情動にも影響を与えやすい。 旧脊髄視床路は、コリの伝達路である一方、痛刺激を与えない場合針施術の刺激伝達路(痛 い針はAδ神経線維が関与するので別物となる)でもあるので、弱刺激の針治療はコリに干渉 し、脳幹網様体に対しては意識レベル低下効果を、大脳辺縁系に対しては爽快効果をもたらす ことができる。換言すれば、弱刺激の針ではリラクセーション作用が得られることになる。 さらにリラクセーション下では、下行抑制により筋トーヌス低下作用も生まれる。 精神安定剤は、脳幹網様体のフィルターを強化し、大脳皮質への情報量を少なくする作用がある