2)不妊症の鍼灸治療成績
約3年間に不妊患者20名に対して針灸治療を試みた。11回以上治療を受けた
15例についての平均治療回数は27.4回、治療期間は平均11.7ヵ月だった。このうち
妊娠に至ったのは4例だった。この4名はいずれも21回以上治療を行なった。妊娠
した4例の治療回数は13~27回で治療日数は95~274日であった。
3)関連報告
①針刺激はホルモン分泌に何らかの影響を与え、不妊症に治療効果を発揮できる。そ
の作用とは中枢に作用してゴナドトロピン分泌を正常化することや、末梢性に作用
して卵巣のゴナドトロピンに対する感受性を高めることが考慮さる。排卵誘発剤に
より排卵を誘発しても妊娠に結びつかない場合があり、こうした例に針治療を行う
価値はある
②精神的ストレスが無排卵、無月経を惹起しているケースもある。持続性無排卵周期
患者の左右のコメカミ(太陽穴の上後方)にプレート低周波通電し、83例中27名に
排卵を認め、さらに5例は妊娠した。
産科の主要疾患
1.妊娠嘔吐(つわり)
1)病態
妊娠初期の6~7週で現われ1~2ヵ月続く吐気、むかつき。とくに早朝空腹時に
強い。妊娠の初期症状。妊婦の2 / 3に起こる。つわりの
程度がひどいものを妊娠悪阻(つわり者の1%)とよぶ。
2)原因
妊娠すると、妊娠を維持するために黄体ホルモンが出続け、このホルモンの影響で
消化器系の運動性が低下することで、つわりが生ずる。また胎盤性ゴナドトロピンが
分泌され、CTZ仲介により嘔吐中枢を刺激するとされる。
妊娠により胎児という異臓器が体内に存在することによる、一種の拒否反応だとする考え方も
できる。妊娠初期は流産しやすく、「つわり」があることで安静を保持できるという面もある。
3)鍼灸治療
妊娠中(とくに妊娠3ヵ月まで。この頃までに胎児の主要器官は完成する)は胎児
奇形を防ぐ意味から、薬物やX線撮影は極力使用すべきではないので、針灸の意義は
大きい。なお伝統的に、妊娠第1期までは下腹部や腰仙部の経穴への刺針や施灸は、
堕胎する危険性もあることから禁忌となっている。
妊娠初期(3ヵ月まで)に風疹にかかると、40%が胎児に奇形をきたすので、中絶
の対象になる。
鍼灸治療は、胎盤に働きかけるのではなく、通常の悪心嘔吐の鍼灸治療と同様に、
胃に働きかける目的で、上腹部や中背部を刺激するのが一般的である。
①皮内針治療
つわりでは、昼間起きている時に吐き気や不快感が強いが、夜間就寝時には少ない
ことから、立位で反応点を診察する。壁に背中をつけた姿勢で上腹部を探する
と、巨闕~中脘あたりの任脈を中心に圧痛点が発見できる。また壁に胸腹をつけた姿
勢で腰背部を探すと脾兪~胃あたりで、胃の裏あたりに相当する起立筋上に圧痛点を
発見できる。これらの反応点すべてに皮内針を貼る。