.重度の頸部筋々膜症(寝違え)の治療
どの方向に頸を回そうとしても、痛くて動かないという重度の寝違えに対しては、速効を約
束すると恥をかくことになりかねない。
前述した「軽度の頸部筋筋々膜症の治療」で、筋の過剰な弛緩が病態発生の本質的原因であ
ることを説明した。重度の頸部筋々膜症では、脱力した状態下で、起立したり頸を動かすなど
して、一度に瞬間的に頭部重量が頸椎に加わった状態で、頸椎を保護するため、頸部筋は瞬時
に保護スパズムという過緊張をきたした状態であると筆者は考えている(同様の病態では、
大腰筋の保護スパズムによるギックリ腰がある)。
頸部には多数の圧痛点が発見できるが、ときに頸部筋の虚脱状態のため圧痛点が見あたらないこともある。
針灸治療は、圧痛点への20分~40分の長時間置針が必要となる。パルスは禁忌。頸筋の強烈
な保護スパズムあるいは頸部筋の虚脱から、正常レベルまでの筋トーヌス回復には時間がかか
るのであろう。
5.側頸部の筋々膜痛の治療
むちうち症や難治性の頸椎捻挫の場合、胸鎖乳突筋を始めとした側頸部筋が緊張して、頸部
のコリや痛みを生じている場合がある。
側頸部の筋緊張を緩める針治療は、仰臥位での施術はあまり効果がないので筆者は、以前は
座位(仰臥位でも可能)にて側頸部圧痛点に何本か1㎝ほど刺針したまま、頸部回旋運動を数
回行わせた後、抜針する方法をとっていたが、最近は胸鎖乳突筋のコリには乳様突起直下に1
本刺針しての運動針でもよいことを発見した。
側頸部の前・中・後斜角筋をゆるめる方法
として、トラベルは、独特の体位をとらせて
同筋を伸張させた状態で、施術する方法を説
明している。
6.胸郭出口症候群の治療
1)治療の基本方針
胸郭出口症候群には機能的原因と構造的原因がある。治療しても症状があまり改善しない
場合には、構造的原因が強いと判断し、手術の対象になる。
2)頸肋症候群の鍼灸治療
本症はあまり遭遇しない疾患で、治験例に乏しいので何ともいえない。
3)(前)斜角筋症候の鍼灸治療
天鼎(大腸):喉頭隆起外方の胸鎖乳突筋中に扶突穴をとる。扶突の後下方1寸で胸鎖乳
突筋後縁に天鼎をとる、前斜角筋、中斜角筋の緊張を緩める目的で、天鼎刺針が行われ
る。この時の天鼎刺針は、腕神経叢ではなく、腕神経叢の近傍(=斜角筋)に入れる。
電撃様針響を求める必要はない。
前斜角筋刺針
①前・中斜角筋の痙縮による腕神経叢と鎖骨下動脈の絞扼に対し、扶突傍神経刺
を考案した(下図)。腕神経叢を直接刺激するには、もっと下位頸椎レベルから刺入する必
要がある一方、前・中斜角筋には刺入できるので、筋を弛めることで神経絞扼障害を改善す
るという、傍神経刺の原則。
しかし胸鎖乳突筋を貫いて後に斜角筋を刺入するとなれば、触診で刺入点を確かめること
はできず、針響を求めないのであれば、刺針しても成功したとする手応えを感じることは難
しいであろう。