②モーレーテスト部位からは胸鎖乳突筋経由でなく、直接的に前斜角筋を押圧できるので、こ
れを刺入点とするのは合理的ではある。この部位は、腕神経叢ブロック鎖骨上法としても知
られる。この部位は直下に肺があるので、理学テスト部位としてはよいが、刺針で気胸を起
こす危険性があるので治療点としては不適であろう。
③天鼎穴(中国式)は、腕神経叢刺激点として適当である一方、前斜角筋
緊張を緩める目的にも用いてよい。筆者が日常行っている天鼎の刺針方法は、胸鎖乳突筋鎖
骨枝の起始部の外方1㎝、上方1㎝ほどの部から側頸部にある横突起を触知し、その横突起
の前方に針先をもってゆくものである。気胸を避けるため、胸ではなく、頸に刺入するのが
重要である。腕神経叢を刺激すると上肢に放散痛が達する。治療効果としてはこのような針
響があってもなくてもいいが、針響を与えることができれば、命中していることに確信がも
てる。その後10分置針とする。パルスは必要がない。
4)肋鎖症候群
気戸(胃):鎖骨下縁で正中より外方6寸の乳頭線上を取穴。第1肋骨下際。針は第1肋
骨と鎖骨の間隙に刺入する(直刺深刺は気胸を起こす)。
※第1肋間には、気戸と庫房(胃経、第2肋骨上際)がある。
缺盆(胃):鎖骨上窩(モーレンハイム窩)にとる。鎖骨下筋の緊張を緩める目的で、缺
盆を刺入点とし、鎖骨の下をくぐらすような針を行う(気胸を避ける注意が必要)。
屋翳(胃):第2肋間にあり、乳頭線上にとる。
5)過外転症候群(=小胸筋症候群)
小胸筋の緊張を緩める目的で、中府からの直刺が行われる。
中府(肺):鎖骨下窩中央に雲門をとり、その下1寸に中府をとる。第2肋間、正中より外
方6寸。気胸を避けて小胸筋を刺激することを目的に、烏口突起の内方1㎝、下方1㎝
の部に中府を取穴。
6)胸廓出口症候群を上記のように細分化して診療することは、理学テストの信憑性が薄いこと
や、理学テスト実施に手間がかかることから、実戦的ではなく、以下のように診療を進める。
①上肢症状が痛み+知覚鈍麻(患者はシビレていると表現することが多い)であり、症状がデ
ルマトームに従っているのであれば、神経根症状であり、神経根周囲刺針を行う。一方、上
肢症状が痛みだけで、症状が末梢神経分布に従っているのであれば、神経絞扼障害を考える。
②神経絞扼障害部分は胸廓出口部や末梢神経走行の特定部分であるか
ら、絞扼障害が予想される部分を指頭で押圧し、症状が再現されるか否かを調べる。
③胸廓出口障害では、その大部分は、前斜角筋部分(=天鼎)あるいは小胸筋部分(=中府)
なので、胸廓出口の理学テストを省略し、まずはこの2穴に刺針し、5~10分間置針する
ことで、治療点診断を試みる。
④実際には、ほとんどの胸廓出口症状は軽減することを経験している。
胸廓出口症候群の中では肋鎖症候群が最も多いという文献もある。肋鎖症候群の診断は、鎖骨と第1肋骨
の間隙をX線で調べることができ、その隙間が一定以下であれば、第1肋骨を切除するという具体的な手
順が決まっているので、医師としては確定診断しやすいのであろう。