耳科疾患の概要
1.聴神経腫瘍(=小脳橋角腫瘍)
1)病理
後頭蓋窩と呼ばれる後頭部の下半分の空間には、脳幹と小脳があり、この間隙のくぼみを小脳橋角部とよぶ。
小脳橋角部は、脳幹から枝分かれする重要な多数の脳神経が頭蓋の外に出る通路で、聴神経も内耳から内耳道孔を通り、小脳橋角部から脳に入る。この小脳橋角部は聴神経腫瘍が好発しやすい。聴覚担当の蝸牛神経、平衡覚担当の前庭神経が合流した状態を聴神経とよぶ。内耳神経も聴神経と同じ意味。
2)症状
初発は、蝸牛神経の虚血による突然の難聴で、突発性難聴との鑑別を要する。本症は良性腫瘍で、発育もきわめて緩慢だが、いずれ前庭神経が圧迫を受けるようになれば平衡感覚の障害を併発する。また内耳道孔の中を通る顔面神経も圧迫されて顔面神経麻痺を起こすこともある。
前庭神経を侵すので一見めまい発作を起こしやすいように思われるが、緩慢に進行する良性腫瘍ということで、中枢神経の代償が十分に間に合うので、めまいを起こすことは少ない。しかし聴覚には代償機能はないので、耳鳴難聴が出現する。
3)治療
聴神経腫瘍は、大きくなると小脳橋角部を越え、生命の座である脳幹を圧迫する。現在では脳手術に代わり、ガンマナイフ治療(腫瘍を萎ませ、あるいは破裂させる)が行われるようになった。30年ほど前は、この疾病はひそかに進行し、完全な脳腫瘍状態になって初めて発見された。現在では早期発見が可能となり、術後の後遺症も少なく処置できるようになった。
ガンマナイフ治療
コバルト60をエネルギー源とし、ガンマ線を、細かいビームを虫めがねの焦点のように病巣部にのみ照射する治療法。「聴神経腫瘍」「髄膜腫」「下垂体腫瘍」など3.5cm以下の頭蓋骨内の良性腫瘍や他の臓器のガンが脳に転移した「転移性脳腫瘍」に適応となる。
2.突発性難聴
1)症状
ある日突然、片耳が聞こえなくなり、同時に回転性めまいが起こる(めまいを伴わない場合も多い)。回転性めまいは、前庭神経や小脳で代償されるため、1~2週間で自然回復するが、難聴は持続する。一側性の高度な感音性難聴で、1回の発作で症状完成する。補充現象陽性。
2)原因
原因不明だが、次の2つの機序が考えられ、いずれの場合にも内耳血流量が低下し、結局は内耳の酸素不足で細胞代謝が低下することによる。
①内耳循環障害説
内耳の血行障害、つまり脳底動脈自体もしくはその枝である前下小脳動脈から分岐した内耳動脈の血栓症→突発性難聴となる。
※内耳に流入する動脈は、内耳動脈の1本のみである。