腰椎椎間板ヘルニアの病態
後頭骨-C1間とC1-C2間を除く椎体間には椎間板があり、重量負荷の際のクッション の役割がある。椎間板は中心にゼリー様の髄核があり、その周囲を線維輪が取り囲んでいる。 衝撃や老化などで線維輪に亀裂ができると、髄核はその亀裂から外に脱出する。飛び出した 髄核や隆起した線維輪により神経が圧迫されたことで、神経痛などの種々の症状が起こる。 なお50才以上では髄核はチーズ状に脱水してくるので髄核の脱出は起こらない。 脊髄神経後根の圧迫や破壊によって生ずる激しい神経痛様疼痛をもたらす状態を神経根症とよぶ。 末梢神経は、発達した神経周囲膜と神経上膜をもつことで、圧迫や牽引などの機械的ストレスが及びにく いのに対し、脊髄神経根(髄液中に浮いて存在)は、このような皮膜がないので、末梢神経よりも機械的 外力に弱く、浮腫を起こしやすい。浮腫→組織圧上昇→神経線維の脱髄→脱髄部から自発性興奮が出て自 発痛が起こる。脊髄神経後根の圧迫だけでは痛みは出ない
分類
線維輪膨隆型と、髄核脱出型(線維輪亀裂から髄核脱出)に大別される。いずれも神経根を 圧迫する。髄核脱出型の方が症状は強いが髄核は自然吸収されやすく、自然治癒しやすい。 腰椎椎間板ヘルニアは20~40才の男性に多い。ヘルニアはL4-L5椎体間(L5神経 根)間に最も多く、次にL5-S1椎体間(S1神経根)間に多い。 後縦靱帯があるので、髄核が後正中方向に脱出することは少ないが、髄核脱出型の一部には、 そうした中心性ヘルニアもある。中心性ヘルニアにより脊髄を圧迫を生じた場合、両側性の腰 下肢症状だけでなく、膀胱・直腸障害が起こるので手術の対象となる
症状・所見
神経根障害の症状は、支配神経デルマ トームの下肢部知覚低下であり、下肢神経痛 は生じない。下肢神経痛は、梨状筋や大腰筋 の緊張による、神経走行途中の神経絞扼障害 で生ずる。 腰椎椎間板ヘルニアによって、坐骨神経痛 が生じるわけではない。
手術の適応について
椎間板ヘルニア手術をしなかった50 名に対し、5年後の状態を調査したところ、症状なしが50 %、症状あるも障害なしが40 %以上、日常生活に困るような障害があるが5 %以下だったという。 結局、ヘルニアが存在してはいても、神経の走行が変化したり、椎体の可動域が減ったりな どして90 %以上の者は改善している。(ただし足に麻痺が生じていたり、膀胱直腸障害が存在 する場合には、迷わず手術の適応になる) 結局、腰椎椎間板ヘルニアにより手術まで至るのは、非常に限られているわけで、保存療法 の一環として、針灸治療は大きな価値があるといえる。 高齢者に生じる坐骨神経痛は、変形性脊椎症によるものが多く、根本治療はできないが、針 灸その他の理学療法により、ADLを良好な状態を保つことを考える