大腰筋性腰痛
1)病態生理と原因 大腰筋は、腰痛と深い関係のあることが、指摘されている。 腰背部筋収縮は脊柱を後屈させる際の力となり、一方腸腰筋(とくに大腰筋)と腹筋は脊柱の収縮は脊柱を前屈する際の力となるから、両者は力学的にバランスがとれているのが普通である。何らかの原因で腸腰筋の持続的収縮が起こると、中腰姿勢状態になり、上体を伸展させる際に、ひどく痛む。中腰姿勢の持続は、バランスをとるために腰背部筋の緊張を惹起するようになり、背部筋の筋筋膜性腰痛も合併するようになる。 大腰筋の伸張状態の持続が極端な場合には、このままでは筋が断裂すると筋・腱紡錘中の受容器が判断→突然の急激な脱力(腰砕け状態で、立つこともできない)になるとする説がある。
2)症状 大腰筋過収縮の場合 ①中腰姿勢になり、無理に上体を起こすと腰痛増悪。 ②朝起きたときに痛いことが多い。 (持続収縮した腸腰筋を無理に伸張状態にしている) ③ 腰部に圧痛点がない場合も多い
(背部筋緊張の合併がない場合) 大腰筋脱力の場合 腰砕け状態になり、立位をとることができない 腰神経叢刺激を受けた場合 大腰筋と腰方形筋の間を腰神経叢の分枝が通る。圧迫刺激を受けやすいのは、大腿神経また は閉鎖神経であり、それぞれの神経支配領域の痛みや知覚過敏が生ずる。
筋緊張による神経絞扼障害
筋自体に痛み知覚は乏しいが、緊張筋の近傍を走る知覚神経が絞扼され興奮する場合がある。 腰方形筋や大腰筋の緊張により、腰神経叢の分枝が神経痛を起こす。腰神経叢から出る各神経枝には、腸骨下腹神経・陰部大腿神経・腸骨鼠径神経・大腿神経・外側大腿皮神経・閉鎖神経(大腿内側の皮膚知覚)がある。それぞれ分布する部位の名称がつているので理解しやすい。 このような神経痛をもたらす診断名は、大腰筋性腰痛が中心となる。
腰部の静脈の循環障害が痛みの原因となった腰痛
病態生理 静脈には弁がない。椎間孔をくぐりぬける椎間静脈や椎間板にまとわりつく椎骨静脈は、体内のさまざまな圧力に依存し、ときには逆流も起こる。 腰椎下部から仙椎上部にかけて、脊柱付近の静脈鬱血があると、産生した痛み物質や虚血のために痛みを訴えるようになる。なんとか静脈圧を高めて静脈血を流そうとして、普段ならば少量の血液しか流れていない末梢静脈の細い枝にも、多量の血液が流れるようになり、それを細絡として観察できるようになる。 細絡:くも状血管拡張。この浅在静脈は通常は肉眼的には見えないが、皮膚乳頭下層の動静脈吻合枝が、局所の毛細血管圧の上昇にともなって代償的に拡大し視認できるものをいう。 症状と診断 この腰痛は、慢性腰痛として出現する(血が貯まるのに時間がかかる)。慢性腰痛を訴え てはいるが、筋緊張や背部一行の圧痛があまりない場合では、この腰痛を疑う。 痛む部(L5~S1棘突起周囲)に一致した細絡があれば診断はほぼ確定するが、細絡がな くても、この腰痛でないことを否定できない。