<母指球筋と疾患>
1.母指球筋
母指内転筋は尺骨神経の運動支配、他の3筋は正中神経の運動支配な
ので、正中神経麻痺では、母指球萎縮する。
2.母指内転筋と短母指屈筋
①尺骨神経麻痺では、フローマン徴候陽性となる。すなわち母指内転筋力(尺)低下するので紙を挟む力
が減じる。代償として短母指屈筋(正)が働き、母指MP関節が屈曲して紙を挟もうとする。
合谷から刺針すると、第1背側骨間筋(尺)を貫き、次いで母指内転筋(尺)に入る。
③短母指屈筋は内在筋なので、腱構造を持たない。魚際刺針で短母指屈筋刺激になる。
なお短母指屈筋と親戚関係にある長母指屈筋は、その腱が母指バネ指の好発部位である。
3.短母指外転筋
①正中神経麻痺時、本筋が麻痺するので母指の掌側外転不能になる。
②短母指外転筋と親戚関係にある長母指外転筋は、同腱と短母指伸筋腱とが共通腱鞘に入り、デ・ケルバ
ン病を生ずることが多い。また長母指外転筋と短母指伸筋は、蛇頭を形成する。蛇頭部刺針には、遍歴
刺針が適する。
4.母指対立筋
正中神経麻痺時、母指腹と小指腹をあわせるのを不能にする
2)正中神経麻痺と針灸治療
正中神経絞扼障害は高位麻痺(肘より上部の神経絞扼障害)と低位麻痺(肘より末梢の神
経絞扼障害)に分類される。臨床上は、ともに低位麻痺である円回内筋症候群と手根管症候
群(詳細後述)がほとんどであって、両疾患の臨床症状は同一である。
正中神経高位麻痺:肘関節より中枢の高位麻痺では、正中神経低位麻痺の症状に、母指の屈曲障害と前腕
回内障害が生じる。また橈側手根屈筋、長掌筋も麻痺する。尺骨神経の深指屈筋への支配領域によって
は示指、さらに中指の屈曲障害も生じる。
①運動麻痺:短母指外転筋麻痺により掌側外転が不能となる。母指対立筋麻痺により母指の
対立運動が不能となる。かつ母指球が萎縮し、猿手を呈する。
猿手:母指球萎縮し、母指と示指をつけると同一平面となる形のこと。
②知覚麻痺:手の母指・示指・中指にみられる。
野球で直球を投げる手の握りで、ボールに触れる部分
③正中神経高位麻痺の針灸治療
天泉(心包):腋窩横紋前端から曲沢に向かい下2寸。烏口腕筋の筋上。
④正中神経低位麻痺の針灸治療
<円回内筋症候群>
孔最(肺):尺沢から橈骨神茎状突起に下ること3寸。腕橈骨筋中にとる。深部に円回内筋
がある。
<手根管症候群> →労宮