膵炎と鍼灸治療
膵臓の内分泌:インスリン(血糖値を下げる)、グルカゴン(血糖値を上げる)
膵臓の外分泌(消化液):アミラーゼ(炭水化物分解酵素)、トリプシン(タンパク質分解酵素)
リパーゼ(脂肪分解酵素)。膵炎では主に外分泌が侵される。
1.膵炎
1)原因
アルコールと胆石が2大原因。
アルコールにより膵管出口が浮腫を起こしたり、胆石が膵管出口部を塞ぐと、膵液が十
二指腸中にスムーズに分泌できなくなる。
2)急性膵炎
急性膵炎には、2つの形がある。
①浮腫性(間質性):間質の浮腫が主体で膵周囲の軽度の脂肪壊死を伴うもので軽症の場合が多。膵炎全体の約80%を占める。
②壊死性:壊死性膵炎は残りの約20%を占め、膵実質内の出血や壊死に膵内外の広範な脂肪壊死を伴い重症のことが多く、死亡率も約20%から30%と高い。
3)病態生理
生理学的には、膵臓の腺房は酵素を非活性化状態で分泌し、十二指腸に出て初めて活性化される。しかし急性膵炎ではトリプシンが膵臓内にあるうちに活性化され、組織を自己消化する。
早期活性化の原因として、膵管の閉塞より活性化された膵酵素を含む十二指腸液の逆流、アルコールの膵液分泌亢進作用が考えられている
4)急性膵炎の症状
急性膵炎の疼痛は、食事か飲酒後に突然生じる。持続的な非常に強烈な痛みが季肋部正中に生じ、背中に放散する。この理由として浸出液と消化酵素が後腹膜に漏れ出て腹膜炎が起きていること、膵臓浮腫に伴う膵皮膜の伸展緊張などが考えられている。血中アミラーゼ上昇。
急性胆石症では、激痛ために患者は七転八倒する。急性膵炎での痛みはこれより強く、患者は痛みのためじっとしており重篤感がある。(仰臥位になると痛み増幅するので、背中を丸めてじっと横になっている)
5)慢性膵炎の症状
持続的な季肋部痛が起こる。膵液中のタンパク質が析出して膵管を閉塞している状態だと考えられている。膵組織は自己消化されず、膵臓組織が線維化する。
5)慢性膵炎の診察法
急性膵炎は症状が激しく、救急入院となるのが普通である。慢性膵炎は診断が難しい。心窩部が痛めば、通常はまず胃疾患を考える。心窩部痛となるのは胃疾患でも慢性膵炎でも同じである。しかし膵臓は脊柱の前面に密着しているので、背中にマクラを入れた状態で心窩部を押圧しすると、胃疾患では症状はとくに変化がないのに、慢性膵炎では痛みは増悪することが多い。また慢性膵炎は進行すると、背部痛も出現する。
2.慢性膵炎の鍼灸治療
鍼灸が取り扱うのは慢性膵炎である。内臓体壁反応の形は胃とほぼ同じパターンにな
る。慢性膵炎に対する鍼灸治療について、清水千里はつぎのように記している。
慢性膵炎には、重症例の多い定型的慢性膵炎と、軽症の多い成因不明の慢性膵炎がある。
後者は複雑な機能障害を成因としている。後者に対しての針灸は機能調整の軽いタッチの全体調整を行なえば著効する例が多い。難症になると鎮痛効果は長続きしないが、治療の継続により、徐々に鎮痛持続時間が延びる。
圧痛は心窩部の下部・上部・左側に出現し、左右の季肋部にもみられることがある。
腹部:太乙、下脘、滑肉門。次いで重要なのは章門、水分、中脘。
背部:脾兪、胃兪、胃倉
下肢:地機、三陰交、蘭尾、足三里
蘭尾(足三里下2寸の新穴)は腹部鎮痛の名穴。強い腹痛に著効がある。膵臓の痛みは頑固なので、地機とともに中国針による置針を行なう。上記で反応点として現れやすいのは、右太乙穴(下脘の外方2寸)と脾兪。
太乙や脾兪は、糖尿病の治療穴として知られている。膵臓に働きかけるという意味では同じ