2)橈骨神経低位麻痺<回外筋症候群>と鍼灸治療
①運動麻痺:
前腕遠位1/3部分の回外筋(≒手三里)による神経絞扼障害。
肘関節末梢で後骨間神経が麻痺し、総指伸筋・小指伸筋の麻痺により、各指のMP関節
が伸展不能となる。これを下垂指とよぶ。(手関節、PIP・DIP関節は正常)
母指のMP関節は伸展(短母指伸筋麻痺)と外転(長母指外転筋麻痺)が不能となる。
②知覚麻痺:出現しない。
③回外筋症候群の鍼灸治療
末梢神経麻痺共通の針灸治療方針:神経絞扼部位が明瞭であれば、その局所を刺激する。
絞扼部位不明瞭な場合、症状部の上流に相当する神経幹を刺激。知覚神経に当てて電撃
様針響を、運動神経に当て筋攣縮を与える。
手三里(大腸):曲池の下2寸。長・橈側手根伸筋の深部にある回外筋に刺入。
3)橈骨神経高位麻痺と針灸治療
①運動麻痺:上腕外側中央部における橈骨神経圧迫や上腕外側部の注射が原因。
橈骨神経低位麻痺症状に加え、長・短橈側手根伸筋(←手関節背屈作用)も麻痺し、
下垂手(手関節運動不能、MP関節運動不能。PIPとDIPの関節運動は正常)とな
る。通称Lover’s 麻痺(男が恋人に腕マクラして寝込み、翌朝に下垂手)
②知覚麻痺:皮枝は前腕部で三焦経(手三里、偏歴など)を通り、手背の母指示指(代表穴
は合谷)を支配。
実際には橈骨神経麻痺は、運動麻痺症状が主体。前腕の知覚支配領域は、筋皮神経支配と
重なり合うので目立たない。知覚麻痺は合谷周囲に出現するに過ぎない
③橈骨神経高位麻痺の針灸治療
・手五里(大腸):曲池の上3寸。上腕三頭筋の外縁。上腕部の橈骨神経幹走行部位。
本穴は神経絞扼障害部位そのものである。
・消濼(三焦):上腕後面。肘頭から上4.5寸(ほぼ中央)。上腕部の橈骨神経幹走行部
・曲池(大腸):肘窩横紋の外端陥凹部。腕頭骨筋起始部。肘部の橈骨神経幹走行部位。
・合谷(大腸):合谷部の皮膚は、橈骨神経の固有支配である。橈骨高位麻痺時に知覚鈍
麻が出現する。
4)装具
・コックアップスプリント(手関節の背屈位固定)
・オッペンハイム装具(手関節、MP関節伸展補助)
・トーマス装具(手関節、MP関節、母指の伸展補助)
3.正中神経麻痺
1)正中神経の走行
①上腕内側の、心包経に沿って走行(代表穴は天泉)し、曲沢に向かう。
②前腕は心包経(代表穴は郄門、内関)に沿って下る。前腕を走る正中神経は、尺側手根屈筋
(←尺骨神経支配)を除く前腕屈筋群を運動支配する。前腕走行中、円回内筋部(≒孔最)
で圧迫を受ける。これを円回内筋症候群とよぶ。
③手関節部では手根管に入る。この部(≒労宮)で神経絞扼障害を受ける(←手根管症候群)
④正中神経は、母指内転筋(本筋は尺骨神経支配)を除く母指球筋のすべて、すなわち
短母指屈筋、短母外転筋、母指対立筋を支配する。
⑤知覚枝は手掌の橈側(母・示・中指)を支配する