麦粒腫腫に対しては二間への施灸5壮(これで眼のうっとうしさは
軽減するが症状消失までには至らない)。多壮灸の方がさらに効果あるともいう。施灸した翌
朝には眼が気にならない程度になるのが普通である。
麦粒腫に対しては、二間の灸ではなく、合谷に灸する者もおり、これも効果があるらしい。
口内炎だけでなく麦粒腫にも肩中兪への深刺を使うということから考えるに、
二間も合谷も、肩中兪の針と同じように、頸部交感神経刺激になるのかもしれない。
皮膚病変に肺・大腸経を使うとしても、古人はなぜ二間や合谷を用いたのだろうか。手で目をこす
る際、指が目に触れる部として、本能的に治療効果があると考えたのだろう。
2)上眼瞼へ多数接触針
閉眼させる。眼瞼全体を上下に6回、左右に6回程度まんべんなく接触刺して皮膚が発赤し、
患者の患部周囲が気持ちよく感じるまで行う。(1.5 吋30 号針)
麦粒腫の現代医学的治療に、眼瞼部の温罨法である。上記治療の奏功機序もこれと同様、眼瞼部の血流増加にあるのだろう
4.眼瞼下垂の鍼灸治療
腱膜性眼瞼下垂は、上眼瞼挙筋が瞼板から剥離している状態なので、鍼灸適応とはいえない。
しかし加齢性などで上眼瞼挙筋の伸張により眼瞼下垂を生ずることはあり、針灸院環境下では
両者の鑑別は難しい。したがって腱膜性眼瞼下垂を疑う症例であっても、鍼灸が奏功する場合が
ある。
1)顔面神経支配である眼輪筋刺激を目的として、上眼瞼縁部への2㎜程
度の浅刺(皮内針でもよい)をする。眼輪筋と上眼挙筋は拮抗筋の関係なので、
上眼挙筋を緊張させるには、輪筋筋緊張を弛めるのがよい。上眼挙筋は眼瞼
の深部にあり、また上眼窩内にあるので、直接刺激することはためらいがある。老人性陳久性の片側性眼瞼下垂症に対し、この治
療法を2~3ヶ月追試し、ほぼ正常にまで回復。
2)頭部外傷後遺症による片側性耳鳴りを訴える例に対し、鍼灸をおこなうと2回治療で非常に
効果あったのだが、この患者は、患側に眼瞼下垂があった(頭部外傷受傷前には存在しなかっ
た)。バレリュー症候群と考え、星状神経節刺を行うも眼瞼下垂状態に変化はなく、
眼瞼縁への多数浅刺を行っても変化なく、上眼瞼挙筋刺激を目的として上眼窩内刺を行っても
変化なかった。主訴である耳鳴りが改善したから治療成功例だが、眼瞼下垂には無効だった。
結局本症は、ホルネル症候群だったのかもしれない。ホルネル症候群には東西医学を問わず、
有効な治療があまりない。
3)ある常連患者の不定愁訴症候群で、本日は左瞼が開きにくいという訴えをがあった(外見上
に左右差はなかった)ので、眼瞼縁に多数浅刺したところ、だいぶ改善したが、眼窩上縁部を
指さし、このあたりが動かないと訴えたので、その上眼窩内刺針点部に1㎝ほど単刺をすると、
良くなったとの返答を得た。これは軽度の上眼瞼挙筋の伸張症だったのだろう。