慢性下痢
1ヵ月以上継続し、強い腹痛や脱水による急激な体力消耗がないものを慢性下痢とい
う。慢性下痢は、現代医学的治療でも容易には治せないものが多い。慢性下痢の大部分
は大腸に原因がある。とくに過敏性腸症候群によるものが多い。
小腸の水分分泌亢進(浸透圧性下痢):吸収不良症候群
大腸の水分吸収低下(=蠕動亢進):過敏性腸症候群
1.過敏性腸症候群(IBS)
1)概念
下痢で病院に来る患者の半数は本疾患。腸は第2の脳とも言われるほど、多くの神経細
胞が集合している。腸の神経細胞には、「センサー細胞」という細胞があり、食べ物が入るとセロトニンを分泌し腸を活動させる。このセンサー細胞は、食べ物が消化吸収しやすいかどうかを判断して、セロトニンの分泌量を調整することで適度に腸の蠕動運動を起こす。この蠕動運動は、脳の指令を受けることなく独自に活動している。
一方、腸は血管を通して脳ともつながっている。脳はストレスを感じると、ストレスホルモン(ノルアドレナリン、ドーパミンなど)を分泌するが、神経細胞の多い腸はそれに敏感に反応してしまい、セロトニンが大量に放出されることで、腸の異常な動きを示すようになる。
3)症状
精神的な大事件(入社試験、卒業試験など)でプレッシャーがかかると、その前後に左下腹部の腹痛を伴う下痢が起こる。ひどい場合は粘液便となり、下痢してもまだあとにつかえている気がする。突如として起こるのが特徴。
①ストレス(+)→腸内自律神経系の乱れ→蠕動運動の乱れ
抽送運動亢進→下痢攪拌(=分節)運動亢進→便秘
②休日や睡眠中などで、交感神経が休まる時は症状がない。
③便秘型(=痙攣性便秘)、下痢型、下痢便秘交代型がある。
下痢と便秘の両方があれば、病型としては「下痢」に入れる
便秘型、下痢型、下痢便秘交代型という分類は実態を
反映しておらず、つぎの3つに分けるのが実用的だという。
a.腹痛型:腸の過剰収縮による。たとえれば、こむら返りが大腸に起きたようなもの。治療は腸収縮を抑制する薬を用いる。
b.トイレ不安型:ストレスですぐに便意を生じ、トイレに行きたくなる。過敏性腸症候群の下痢型。
本質的には内臓の神経が、感覚・反射ととも過敏になっている状態で、便が少しでも直腸に入ると便意が生ずることによる。性格的には神経質者や完璧主義者でインテリに多い。
c.大腸過長症型:従来の便秘型もしくは下痢便秘交代型に相当。基本的には便秘であり、これはS状結腸が
長く、腸は屈曲していることによる。便秘があるレベルに達すると、腸の反射が活発になり下痢
をきたす。治療にはマイルドな下剤を使用する。
3)治療
対症療法として抗コリン剤(副交感神経遮断剤。蠕動運動を止めることで腹痛を止
める作用)、精神安定剤。生活指導。
実際には、薬物療法でコントロールできない患者は非常に多い。これは鍼灸でも同じ。
2008年から、男性の下痢型の過敏性腸症候群に対しては、塩酸ラモセトロン(製品名はイリボー錠。セロトニン阻止剤。セロトニンは腸を動かし下痢をもたらすが、この働きを阻止する作用)が認可投与されるようになった。