2.機能性胃腸症の鍼灸治療
機能性胃腸症(従来の慢性胃炎、胃アトニー、胃下垂)は、蠕動運動低下なので交感神経緊張状態で生ずるが、慢性になるとバランスをとるために副交感神経も緊張するので、無気力・倦怠感なども出現してくる。
交感神経と副交感神経の両者が緊張した状態とは、つぎのようにたとえられる。まず患者は車のアクセルを踏んだ状態にありスピードオーバーの状況にある。スピードを落とすためには、普通であれば、アクセルペダルから足を離してブレーキを踏むが、この患者の場合、アクセルペダルを踏んだまま、ブレーキを踏む状態になっている。
このような場合、車をコントロールするには、まずアクセルから足を離し、次にブレーキを踏まねばならない。前者を第1段階の治療でリフレッシュメントを目的とし、後者を第2段階
の治療でリラクセーションと考えると理解しやすいだろう。
第1段階の治療--交感神経緊張を鎮める目的での瀉法
1)全身の筋肉を刺激することが必要で、例えば上腕の二頭筋をつまんで引き上げるよ
うにすると、非常に痛いが胃の気分が良くなる。また淵腋から章門にかけて刺激する
と患者はくすぐったいので全身に力を入れる。我慢をさせてこれを行うと腹筋にも力
が入る。すると急にゴロゴロと音がして胃が収縮し、下垂している胃が上昇する。
2)座位にさせ、腹筋に力を入れさせた状態にしての刺針。
第2段階の治療--副交感神経緊張を高める目的での補法
胃・十二指腸潰瘍の治療と同じで、リラクセーションを目的とする。
その他に足三里や合谷などの四肢末梢穴刺激も注目される。佐藤昭夫らは麻酔下のラットを使った実験で、1 / 3の実験動物(ラット)で蠕動運動亢進し、一方背部や腹部刺激では胃蠕動運動が抑制されることを明らかにした。すなわち第2段階の治療としては末梢穴を用いればよいことが分かる。
ただし末梢穴の効果は概して不安定である。たとえば足三里への針で、ある患者は必ず胃がグルグルと音をたて、別の患者では肩井の針でゲップが出る。しかし大多数の患者は、治療者は何も変化を捉えることができない。
治験例
55歳男性。上腹部膨満感(胃が動かない感じ)を訴える。胃に関する諸検査や血液検査は正常。腹部、背部を中心に、針灸治療を50回行うも、満足すべき効果なく、治療中止した。
下肢末梢神経刺激の意義
深腓骨神経や大腿神経刺激が胃の蠕動運動に影響を与えることが動物実験で確認されているので、末梢神経に響かせる針が効果を生じていることも考えられる。
①足三里:外膝眼の下3寸。前脛骨筋中。深刺時は深腓骨神経刺激
②蘭尾:足三里の下2寸。前脛骨筋中。深刺時は深腓骨神経刺激
③梁丘:膝蓋骨外上縁より上方2寸。外側広筋中。大腿神経刺激