常見消化器症状の診療ポイント
1.食欲不振
1)除外診断
最も多いのは胃を中心とした上部消化器機能低下であるが、まず次の疾患を除外診断する。
R/O 非消化器疾患
①全身疾患の一部としての食欲不振
甲状腺機能低下症:寒がり、便秘、倦怠感、徐脈→甲状腺ホルモン治療
貧血:動悸、息切れ、易疲労→貧血の原因追及が必要。大部分は鉄欠乏性貧血。
悪性腫瘍:食べていても体重減少する。(1ヶ月間で3㎏、3ヶ月間で5㎏以上)
癌になると、癌細胞から筋を破壊する物質が分泌されて、脂肪ではなく、主にタンパク質と糖が消費され、筋肉を破壊してエネルギーを補うようになる。筋肉が減ることで体重減少が起こる。体力が奪われるので、元気がないように見える。
②精神疾患
デプレッション(抑鬱状態)
神経性食思不振症:食事をしたいとは思わない。るいそう。ドーパミン分泌過多になっているので、意外に活動的。ドーパミン分泌低下では、欝病やパーキンソン病が生ずる。
2)鍼灸治療
鍼灸治療は、まずは交感神経緊張を緩める目的で行う。食欲不振の特効穴として太白が知られている。
太白
①位置:第1中足指節関節(MP関節)の後内側、中足骨の内側を後方からさすって
て指が止まるところ。肌目の赤白肉の境。脾経の原穴。
②刺針:寸3#2で、骨に当てず、また響かせないよう深めに直刺。足底部筋(足指
の屈筋で脛骨神経支配)の刺激に用いる。
5~1 5分間置(症状がなくなるまで)。置針して時間がたつにつれ、胃が温かくなり痛みがなくなる、胃が動きだす。お腹がすいてきた、気持ち良いなどと表現する。
③適応:胃がもたれ、すっきりしないなどの二日酔い的な症状。
操体法での食欲増進の方法としては、足首を立て、足指を強く背屈させた姿勢で正座させる。尻を左右に動かすことで指先を揉むようにする。これは、直接的には足底筋のストレッチ
刺激であり、太白刺針と類似性がある。
2.鼓腸(腹張)
1)鼓腸の原因
消化管内にガス(空気を含む)が溜まっている状態を鼓腸とよぶ。鼓脹となる重篤疾患にイレウスがある
が、多くは機能性であり、過敏性腸症候群の徴候に含める。
口から飲み込まれた空気は、大部分がゲップとして排出されるが一部は胃泡として留まり、一部は腸内に進む。腸内ガスの大部分は、肛門からおならとして放出されるか、消化管壁から吸収されて血液中に入り肺
で排出される(おならを我慢すると、このガスは血液に溶け込み、肺から外に放出される。この時、ニオイ成分はなくなっているので、吐息が臭うことはない)。
正常な人では1日に10回以上おならが出るが、鼓腸があるとそれ以上多くのおならが出る。消化管の細菌も代謝の分解産物としてガスを発生する