4.鬱滞性急性乳腺炎
1)病態
乳汁の分泌はあるのに、乳腺閉塞がある、または授乳技術が悪いなどで、乳汁が乳
管に鬱積する。乳房内の乳管閉塞部位に一致した発赤・圧痛・熱感を伴う硬結(鬱積
量が多い場合は漬物石様)が形成される。
2)現代医学治療
乳房がしこってきたり、痛くなってきたという初期ならば乳房をシャワーや熱い濡
れタオルで温めること、また頻回の搾乳が効果的。乳房に熱があるようならば、冷湿
布をする。感染予防目的に抗生物質投与。乳房マッサージ(乳管閉塞を開通させ、
シコリをほぐしてゆく)。ひどい場合には薬で一時的に乳汁分泌を止める。
3)鍼灸治療
①全身要因
授乳分泌と維持には、乳汁産生に関与するプロラクチンと、射乳を促進させるオキシトシ
ンの分泌を調整する視床下部ー下垂体系が正常であることが不可欠である。一方、母親は生
まれたばかりの赤ちゃんの世話で、慢性疲労状態で、かつ情緒不安定となりがちで、ホルモ
ン系に変調をきたしやすい。
こうした者への治療は、ストレス改善目的で治療を行う。とくに肩こりと背部圧迫感の改
善に主眼をおいた治療を行う。他に頻回授乳と休息が大事。
②乳房要因
乳房の硬結部に対する局所刺針と、膻中施灸(せんねん灸など)、肩井、天宗な
どが知られる。
鍼灸治療では細針で乳腺の周囲に4本程度、針先が乳腺の底辺に達する角度で
3.5㎝刺入
深谷伊三郎は特効穴としては、天宗(膏肓でもよい)への多壮灸を推奨している。
古典では、分泌は小腸経に関係するとされているので、小腸経の天宗をとる。
家人の乳腺炎:第一子出産後から乳汁分泌過多で、子供に飲ませるほか、自分で搾乳していた。搾乳には結構体力を使うが、疲労で搾乳不十分なためか出産1ヶ月後に鬱滞性乳腺炎出現。片側乳房が重く
パンパンに腫れて痛み、また漬物石のように重く冷たくなった。
腫れている乳房中の、しこりをめがけて0番針で刺針を試みるも、刺痛が激しく治療拒否。やむなく夜中に病院受診。看護婦が数分間、乳首を揉みほぐしていると、ポタポタと乳汁が垂れ始め、最後には噴水のように乳汁が吹き出すとともに乳房の腫れが急速に萎み始めた。
4.急性化膿性乳腺炎
1)原因・病態
鬱帯性乳腺炎からの進展によるものと、乳頭亀裂からの化膿菌感染によるものとがある。
乳房局所の症状としては、前記の鬱帯性乳腺炎と同じだが、症状はより激しく、また全身症状として、悪寒・発熱(多くは39℃以上)が起こる。
2)現代医学的治療
保存療法として、抗生物質や消炎鎮痛剤の投与と冷罨法。膿瘍を形成した場合の観血療法としては穿刺排膿と切開排膿がある。