筋と遅筋
筋肉は速筋と遅筋に大別される。両者の相違は次のようである。 速筋:収縮速度が速くて大きな力を出すのに適するが、疲れやすい。意志(大脳皮質の命令) により働く。腕や手に多い。その色から赤筋ともよぶ。ボディービルダーのような体形にな るには、赤筋を鍛えることが必要だが、ボディービルダーは持久力がない。 遅筋:腰背・臀部・大腿・下腿など、体の姿勢を支える部分に多い。遅筋は、大脳皮質に からの命令だけでなく、無意識下でも働いている。その色から白筋ともよぶ。 「凝り」「張り」をもたらすのは、無意識下で働いている筋である遅筋に多く、コリの針灸 治療においては、これら遅筋を中心に施術する。
痛みと伝導路
①一次痛:新脊髄視床路 伝導速度の速いAδ線維(有髄神経)による。脊髄視床路系伝導路の一つ。 新幹線式の速い経路で、大脳皮質感覚野へは視床を介して純粋な疼痛信号のみを伝える。 代表的疾患は捻挫や外傷などの組織損傷を伴う疾患。痛み物質を遊離することで炎症反応 を引きおこし、自然治癒力を惹起させることができる。 針灸治療では、患部組織を針や灸により、よい意味で傷つけることで、自然治癒力を促す 狙いがある。 ②二次痛:旧脊髄視床路 伝導速度の遅いC線維(無髄神経) による。新脊髄視床路より内側にある 旧脊髄視床路を上行して大部分は中脳 網様体(≒脳幹網様体)に入り、視床 下部や視床を経て大脳皮質全体に入 り、鈍い痛みを伝える。 この痛みの伝導路は,各駅に立ち寄 る普通列車であり、痛み刺激は大脳に 達するまでに情動などからさまざまな 影響を受ける。 また痛み刺激に対して反応が持続的 で、刺激が終わっても長く続く。大脳 皮質に到達しても痛みとして感じるば かりでなく、運動野にまで到着してほ かの感覚も生じる。 持続的筋緊張が続くと、筋線維中の血管を圧迫して血流障害を引き起こす。血流障害 は酸素の供給を妨げ、ブドウ糖の不完全燃焼を起こし、乳酸などの疲労物質を生み出す。 血流障害のために疲労物質が洗い流されず蓄積され、筋肉の神経終末を刺激するように なる。このことにより初めて脳は、組織が損傷したことを知り、血液を集めて治そう (=自然治癒力)とする。しかし肩こりのように、疲労物質で神経が刺激を受けた場合は、 局在が不明確なC線維で脳に伝わるため、脳は、痛みの場所がわからず、自然治癒力は働 かない。しかし筋緊張部分に強刺激の針を刺入していくと、組織が損傷し、細胞から発痛 物質が出て、脳は治す場所を認識し、自然治癒力を働かす。要するに、コリに対しては、 強刺激が効果的になる。 二次痛の受容器をポリモーダル受容器とよぶ。ポリモーダル受容器は一次痛受容器の自由神経終末と異 なり、未分化原始的な侵害受容器で、全身の皮膚、筋、筋膜、内臓など広範な組織に存在する。 生体のネガティブフィードバック機構を賦活させ鎮痛をもたらし、その他自律神経系、内分泌系、免疫 系にも強い修飾効果があるとされている。