メニエールの鍼灸治療は、頸性めまいの鍼灸治療と変わるところがない。
めまい患者にみる頭頂部付近の浮腫は、水滞証の所見とみることはできるが、この浮腫部分を刺激することがめまい治療につながる現代医学的根拠は定かではない
<脳脊髄液の環流不全とめまい>
頸性めまいの一つの所見として、頸部におけるクモ膜下腔の狭小による脳脊髄液環流不全が想定されるかもしれない
脳脊髄液は、静脈洞の膜顆粒を通過して静脈血に吸収される場所と考えられている。本来脊髄を下降すべき髄液が、頸部クモ膜下腔の狭小により、クモ膜顆粒を通しての静脈洞環流量の増加は、頭頂導出静脈を介して、頭頂部浮腫をつくるのかもしれない。
4)慢性メニエール病の鍼灸治療
慢性メニエール病の主訴は、耳閉感、耳鳴り、頭重・頸重であり、固定した症状の中にも波はあり、症状が亢じると家事や仕事ができなくなる程度にまで悪化する。
針灸治療は、中国針などの太針にて項部からの深刺や、太陽、完骨などに、仰臥位にて置針20分ほど行うと、当面ので頭重・頸重は軽減し、一応の仕事ができる程度にはなる。しかし週1~2回程度の通院が必要で、しかも長期的な展望としても完治にはつながらない。
4.乗物酔い(加速度病、動揺病)
1)病態生理
頭の位置や加速度を感じる内耳からの情報と、視覚からの情報との不整合により発症する前庭-自律神経反射の一つ。未体験の情報では強く現れるが、「慣れ」という学習によって克服することができる。
2)症状:乗物に乗っている時に生ずる。顔面蒼白、吐き気や冷汗、悪心嘔吐。
3)現代医学治療
酔い止めの薬として、抗ヒスタミン剤投与。抗ヒスタミン剤は脳の中枢に働き、快・不快を判断する脳の働きを抑え、自律神経の興奮を鎮めることで、前庭機能の過敏性を改善する。ただし揺れが激しい場合には効果が薄い。
4)鍼灸治療
乗物酔いに対する鍼灸は、旅行前の応急処置として依頼されることがある。筆者は報告された多くの発表された治療法を調べてみると、築賓・三陰交・第2大敦・厲兌などの下肢部陰経の穴に対し、灸や皮内鍼が多用されているのがわかった。
そうであれば、術者の指導も容易で、患者自身でも簡単にできる方法が好ましいので、「両側母趾爪中央へ、米粒大の灸を熱く感じるまで施灸する(通常3~5壮)」
という方法、効果良好である。旅行前夜と旅行直前に施灸するよう指導する。
母趾爪中央の灸の治効は、深部知覚系の情報に影響を与える効果なのだろうか。