3.メニエール病に対する鍼灸治療の検討
1)①方法:入院にて土日を除く週5回治療を、2~3週間実施。後頸部、後頭部、側頭部、頭頂部の左右の中で、圧痛あるいは硬結の最も強い部から2点ずつ計4点を選び、そこに寸3の3番鍼で、同側同士を対にし、患者に苦痛を与えない範囲で、1ヘルツの刺鍼低周波通電。通電時間15分、後に極性を変えて5分間、計20分間の通電。
②取穴:研究当初は治療法統一のため、百会-風池を取穴していたが、後にいくつかのバリエーションを行うようになった。めまい発作反復例で、百会付近に圧痛あるものは百会。耳鳴、難聴の改善をめざすもので聴会付近に圧痛あるものは聴会。その他にも風池、百会 安眠、翳明、翳風、聴会、天柱、顖会を取穴した。ただし風池、百会、安眠で75%以上を占めた。
③治療結果:めまい(3年間観察):著効65% 、有効26%、無効18% 、判定不能4%(計23例)。聴力(5年間観察):改善5.6%、不変91.5%、悪化2.8%(計59例、71耳)
④考察:メニエールの針灸治療で発作自体が軽くなるのではなく、発作が起きにくくする効果である。前庭-脊髄反射の逆、すなわち頭部や項部の針灸刺激により、これらの筋緊張が緩和され、そのことが前庭機能にプラスに影響することが考えられる。聴力改善に対する効果はさほどの成績ではないが、薬物療法の結果は、改善0%、不変87%、悪化13%であり、針治療のほうが優れている。
2)頭頂部浮腫帯への刺針
患者はめまい発作が起こる時期になると、百会を
中心として「神聰四穴」あるいは「廻髪五処」の領域で、広い範囲で皮下浮腫状態が観察され、発作が鎮まるとその程度が減弱する例があったとし、めまいと水毒、水毒と百会は密接な関係がありそうだという印象。メニエール病患者は、頭頂部付近の皮下浮腫帯がみられ、この部の浮腫の消長と症状が一致することを指摘した。浮腫部に対する治療として、通天または絡却から百会に向けての横刺を行うことで、著効47%、有効53%(30症例中)の成績を得た。
3)メニエール病の鍼灸
、メニエール病における内耳水腫の原因は、自律神経の異常だろうと考えられて
いた。現在では、球形嚢内で微小な炭酸カルシウムの耳石が剥離して、内リンパ液の通路をふさいだ結果、内耳が内リンパ水腫になることが明らかとなり、器質的疾患と認識されるようになった。
めまいは、代償機能が発揮されると軽減されるので、筆者は頸部筋の固有深部知覚受容器に働きかけることで治療効果が得られたのだろうと理解している。難聴・耳鳴は代償機能がないので、治療成績はあまりよくない。