一般に脊柱の深部に位置する棘間筋や横突間筋筋などの小さな筋は、体幹の運動や体重支持の役割は少なく、姿勢保持機能としての機能をもっている。頸部にあっては、頭位の変化すなわち頸椎の動きや位置を、C1~C3 神経根を通って脊髄か
ら延髄の前庭神経核に送るセンサーとしての役割があることが知られている。とくに後頭下筋は眼球運動に対応して素早い頭位調節運動を起こす機能もある。
頸部深部筋の固有受容器の多い筋としては、他に頭板状筋・頭最長筋・頭半棘筋がある。これら中層部筋に対する刺針も有効となる場合があろう。
一方、筋への針刺激は、筋腹部よりも骨付着部に行う方が、筋弛緩効果があることも知られている。筋腱の骨付着部は、靱帯の伸びを感知し、これに応じて筋トーヌスを決定しているからである。
後頭下筋への刺針ポイントは、上項線の下縁・第1頸椎横突起・第2頸椎棘突起となることがわかる。頸半棘筋への刺針はC2~C3棘突起部となる。頸横突筋への刺針は実際的には困難であろう。いずれも骨へぶつかる程度までの深刺を行う。
刺針時の体位は、該当筋を伸張した状態で行う。伏臥位で胸アテマクラのみ使用する。
後頭骨-C1間での刺針は、額をベッドにつける形で頸椎前屈姿勢で行う。C1-C2間刺針での刺針は、横を向かせ頸椎回旋姿勢で行ない、術者は患者の頭位を固定した状態を保持するよう力を加えつつ、それに反発するような動きを指示するとよい。
3)胸鎖乳突筋刺針
ムチウチ症では、胸鎖乳突筋に強い圧痛をみることが多いが、胸鎖乳突筋の緊張(とくに緊張の左右差)のある者は、頸部痛と同時にめまいを訴えることが多い。めまいは、胸鎖乳頭筋のトリガーポイントが自律神経作用に作用した結果だという。
以前、私はこうした患者に対して、緊張した側の胸鎖乳突筋に沿って5~6本刺針しての運動針をおこなっていたが、乳様突起の胸鎖乳突筋付着部(完骨あたり)に1本刺針した状態で、首を左右に回旋させる筋のストレッチ運動を併用することで、同様の効果をあることを知った。
この方法でとくに効果を実感できるのは、頸の回旋の可動域拡大をみることができる時である。
運動針を行うと、頸部痛・めまいとも改善することが多い。(ただしその効果は一過性で、数日後には元に戻りやすいので、安静+繰り返しの施術が重要である)
4)遠隔治療
めまいは重力との関係が深いので、脊柱起立筋などの抗重力筋の深部固有感覚受容器の関与も考えられるので、整体的な治療も有効となる可能性がある。
また立位時にめまいを感じるのであれば、足部の深部感覚受容器の影響も考えられる。その体表的経穴が、大敦または第2大敦(足母指爪根部中央)の灸であって、竹之内診佐夫の研究が知られている。めまい発作中に太敦穴に施灸したところ、多壮にて初めて熱さを感じ、めまい発作消退時には少壮で熱さを感ずる者がいるとのことである。爪甲根部中央を第2太敦穴とし、34名のめまい患者にこの穴の灸7壮を週1回で10週実施したところ、著効12名であったという。