9.耳鳴りの鍼灸治療効果の印象
1)内耳に原因がある耳鳴りに針灸は有効とならない公算が大きい。仮に針灸で内耳血流を改善できたとしても、肝腎のコルチ器の有毛細胞が崩壊しているならば、治せる筈もないのである。
2)まず治療効果に乏しい内耳性耳鳴りの病態を、除外(治療しない)した後、耳鳴り治療に着手する。
3)内耳障害以外で耳鳴りを生ずるのは、顎関節症とむち打ち症が筆頭で、広い意味では自律神経失調症も適応になる。これらが鍼灸治療対象になるかと思う。
4)耳鳴りの鍼灸有効率の印象
耳鳴りで鍼灸を希望する患者全員に鍼灸を行うとすれば、有効率は1割未満となるだろう。しかし鍼灸の適応するらしい耳鳴りだけに針灸を行うとすれば、有効率は7~8割となるというのが現時点での印象である。耳鳴りの性状が、拍動性であるものは鍼灸が効果あるとする報告がある。拍動性というのは自分自身の頭頸部の脈拍音が聞こえているとされるので、頸部のコリを緩める治療を行うと改善するという。
めまいの鍼灸治療
1鍼灸.に来院するめまい患者の傾向
1)放置していると危険なめまいの除外
以下の疾患が考え得るが、鍼灸師は鑑別手段をもたないので、専門医の受診を先行させることである。実際には、患者の多くが耳鼻科で治らなかったので鍼灸を訪問するケースが多い。
持続するめまい:小脳橋角腫瘍、聴神経腫瘍、内耳梅毒
垂直性眼振:中枢性のめまい
2)医療機関できちんとした診断がついているもの(少ない)
耳科:メニエ-ル病、良性発作性頭位めまい、突発性難聴など
整形:頸性めまい(頸部脊椎症、むちうち症などによる)
内科:降圧剤の副作用(血圧の下げ過ぎ)
3)医療機関できちんとした診断がついていないもの(多い)
自律神経失調症、更年期障害といった診断をつけられることが多い。従って、非回転性
めまいである。回転性めまい≒内耳性と判断できるのに対し、非回転めまいは、頸性・内科
性・中枢性など種々考えられる。
2.頸性めまいの鍼灸治療
1)上部頸椎の高さにある深部筋刺激
平衡感覚は、耳・眼・深部感覚受容器の3者からの情報が延髄の前庭神経核に集合し、互いに照合されて保全をされる。その1つのである深部感覚受容器は、全身いたるところに存在しているが、頭位とのかかわりを考えた場合、頸部深部筋との関わりが深いであろう。
動物は、全身骨格筋の緊張を変化させ、身体平衡を保つように働く。これを前庭-脊髄反射とよぶ。前庭-脊髄反射は骨格筋のなかでも頚筋の関与が最も大きい。一側前庭は同側の筋緊張を高めている。逆にその機能が低下すると筋緊張低下が起こり、歩行などが同側へ偏位する。