2)長時間置針 身体が副交感神経緊張状態であれば、末梢血流が増大する。患者をこのような状態に誘導す るのは、リラクセーションを目的とした、細い針にて行う置針である。仰臥位そして伏臥位に て刺痛を与えないで行う全身的な置針である。なお筋緊張緩和を目的とする置針では5~15 分程度でよいが、血流改善を目的としたものでは、20分以上の置針が必要となる。 関元、太谿への30分間置針 下腹部から腰部が冷え、夏の暑い時にも下腹にカイロを入れているという程度の婦人で、 脈が遅または弱または沈であれば、関元、左右の太谿に30分間ほど置針すると、下腹部に温 湯が注がれたような気持ちになり、ほとんどの患者が喜ぶ。 足冷に咳をすること 冷え性ではないが、寒冷時に布団に入った後、いくら待っても足が温まらず、寝つけないことがある。あ る晩、そうした中で、たままた5~6回咳が連続して出た。するとその直後から足に熱い血の流れを感じ、足 が温まることを経験した。ついで今度は意識的に咳をしてみると、さらに足が暖まった。咳をする→副交感 神経緊張→下肢動脈血管壁拡張→足冷の改善という機序が考案できる。 布団に入り身体が温まると、咳が出ると訴える者がいる。これは副交感神経緊張 →咳という機序が考案できるが、自ら咳をすることが副交感神経緊張に導くことができる。
5.根底に冷えがある疾患・症状 東洋医学では、「冷え」を非常に重視している。一見して冷えと関係ない症状であっても、 その真因として、冷えを考えることが多い。 1)胃腸障害 腹部は四肢と異なり、本来核心温度を維持すべき部位である。「寝冷え」などで腹部内臓温 度が下がると、胃腸機能の低下を起こす。消化吸収という本来の仕事を放棄して、胃腸内容物 を下方へと通過させてしまう。この結果、胃腸の蠕動運動亢進→下痢腹痛となる。 2)膀胱炎 膀胱部の血流が悪くなると、免疫機能が低下し、健常時ならば無害な常在細菌(おもに大腸 菌)にも容易に感染し、膀胱炎(排尿時痛、尿混濁、残尿感)となる。とくに女性は尿道が短 いので、細菌が膀胱まで侵入しやすいので、男性に比べて膀胱炎を起こしやすい。 3)Ⅰ型アレルギー 気管支喘息・アトピー性皮膚炎・鼻アレルギーに代表されるⅠ型アレルギー疾患では、アレ ルゲンの感作によりヒスタミンなどの血管拡張物質が放出される。血管拡張物質は、外気温と は無関係に、一方的に血管を拡張させ、結果的に放熱を盛んにするので冷えを生じやすい。 4)不眠 手足に冷えがあると、それが苦になって入眠を妨げる。また睡眠の本質的目的は、加熱状態 にある脳の冷却にあるので、体温が低ければ、睡眠総量が減少することになる。 5)めまい・立ちくらみ 起立性低血圧では、急に立ち上がる際、めまい・立ちくらみが起こる。これは起立時に起こ るべき四肢末梢血管収縮が不十分なため、一過性脳虚血が起こることが多い。 とくに寒冷時に、末梢血管があまり収縮しない状況では、末梢血管抵抗が減少して起立性 低血圧を起こしやすくなる。