頸肩腕症状の鑑別診断
<第1段階> 症状は、次のどれか?
頸部痛のみA.急性筋筋膜症の疑診
頸部痛+上肢知覚低下→ B.頸部神経根症の疑診
上肢痛症状のみC.胸郭出口症候群の疑診
<第2段階>
A.急性筋筋膜症の疑診
あり
安静時痛→ 筋の強い炎症(針灸不適応)
なし↓
鋭い運動時痛:おもに頸部筋伸張痛(針灸速効)
いいえ↓
鈍い運動時痛:おもに頸部筋収縮痛(針灸有効)
起床時の頸痛であれば、寝違えを、交通事故などではムチウチ症を疑う。
B.頸部神経根症の疑診
はい
症状は下肢におよぶ→ 頸髄症など(針灸不適応)
いいえ↓
陽性
頸部神経根症理学テスト→レベル診断テスト(腱反射、知覚、筋力)
上腕二頭筋腱反射↓、三角筋部知覚↓: C5神経根症
橈骨反射↓、第1第2指知覚↓: C6神経根症
上腕三頭筋腱反射↓、第3指知覚↓: C7神経根症
第4第5指知覚↓、指の内転外転力↓:C8,Th1神経根症
高齢者では変形性頸椎症を、若年者であれば頸椎椎間板ヘルニアを疑う。
C.胸郭出口症候群の疑診いいえ
上肢症状は灼熱様(ピリピリ、ヒリヒリ)→ 不明(いわゆる頸腕症候群)
はい
ルーステスト陽性:胸郭出口症候群
上肢血管症状(冷え、脈拍減弱) アレン・モーレー・アドソン陽性:前斜角筋症候群
なし↓ エデンテスト陽性:肋鎖症候群
頸肋症候群ライトテスト陽性:過外転症候群
胸郭出口アレンモーリーアドソンエデンライト
前斜角筋肋鎖過外
頸肩腕痛の鍼灸治療
1.頸部椎間関節症の治療
重度の寝違えや、ムチウチでは頸部の筋々膜症に加えて、頸椎の椎間関節症(急性では捻挫、
慢性では骨の変形によるものが多い)による痛みを生じているケースが多い。
椎間関節症に限らず、頸椎の痛みは脊髄神経後枝の興奮によることが大部分なので、針灸治療
では後枝痛の鎮痛を図ることが重要である。これには圧痛ある頸部夾脊刺針や頸部椎間関節への
深刺で、著効が得られることが多い。両者とも針灸治療では非常に多用する技法である。
1)頸部夾脊刺針
胸椎~腰椎における夾脊刺針(=背部一行刺針)と同様である。夾脊刺針に関する詳しい説
明は、「第4症腰痛症」にある。
①症状部からだいたい斜め45度上内方の脊柱方向に直線を描き、圧痛ある頸部夾脊(棘突起
の5分外方の棘突起直側部)を治療点とする。
②寸6#3~#5程度の針で、棘突起を形成する骨面にこすりつけるようにして刺入する。
針先が硬い部分に入れば、軽く雀啄して5~10分置針する。(針は太い方が効果がある)
2)頸部椎間関節刺針
頸部夾脊刺針により、大部分の後枝痛は改善できるが、椎間関節症の一部では効果があまり
ないことがある。頸部椎間関節刺針は強刺激になるので、まずは頸部夾脊を行い、効果の乏し
い場合に限って頸部椎間関節刺針を行うようにするとよい。
予想された頸部夾脊に圧痛がない場合や、症状部位が広汎で不明瞭な場合にも頸部椎間関節
刺針が適応となる。
①座位にて、症状部からだいたい斜め45度上内方の脊柱方向に直線を描き頸椎と交わる点を
マークする
②普通体格者で1.5~2インチ、首の太い者では2~2.5インチの#30中国針(和針8番相当)
を用意し、上記の点から外方1寸で直下に頸椎椎間関節があると思える部から骨にぶつかる
まで深刺する。さらに骨に針先をぶつけるよう数回タッピング、その後抜針する。