ラムゼイ・ハント症侯群
1)原因
幼少の頃の水痘ウィルス感染の既往あり。水痘症状は完治するが、顔面神経膝神経節部に
水痘ウィルスが潜み、休眠状態におかれる。成人になって過労やストレスなどで免疫力が低下
した際、このウィルスは帯状疱疹ウィルス(水痘ウィルスと帯状疱疹ウィルスは同じもので、
水痘帯状疱疹ウィルスともよぶ)と名称を変え、再活性化する。顔面麻痺の2割を占める。
水痘:通称水ぼうそう。2~6歳の幼児に好発。接触、飛沫、空気感染。潜伏期は11~20日。38~39℃の発
熱とともに、全身(頭髪や口中にも)に赤く隆起した小さな発疹ができる。これはやがて水2~5㎜ほ
どの水疱(内部に水をもった発疹)となり、2~3日で乾いて痂皮となり治癒する。終生免疫。
帯状疱疹の症状:まず皮膚の痛みや痒みが出現し(出ないこともある)、その後水疱が出始める。数日後には、それらが集まり、身体の片側に神経走行と一致した帯状の配列をつくる。1週間程度で水疱は破れ、
乾いて痂皮となり、間もなく治癒するが、ときに水疱痕が残ったり、帯状疱疹後神経痛として難治性の
後遺症が残ることもある。水痘の感染既往のない者は、帯状疱疹とはならず、水痘とし症状出現する。
2)症状・経過
突然の顔面神経麻痺の発病後(この段階ではベル麻痺と区別がつかない)、4~5日程度で
外耳道や耳垂部に水疱ができた場合、ラムゼイハント症候群と診断される。水疱ができる以前
に、耳中や耳の後ろの痛みを伴うことも多い。聞こえが悪くなったり、耳鳴りがしたり、ふら
つきやめまいが生じることもあえる。麻痺と同側の涙の分泌低下、味覚の低下や聴覚過敏(物
音が響く)になることもある。水疱自体は、まもなく痂皮となり自然治癒する。
①末梢性顔面麻痺
②聴神経症状:難聴・耳鳴・めまい※聴神経とは、内耳神経の別称のことである。
③顔面神経膝神経節神経痛:外耳道(軟口蓋部)や耳介の痛みを伴う小水疱(帯状疱疹)
3)検査と治療
血液検査により、水痘・帯状疱疹ウィルスの再活性化が生じていることの確認。
しかしながら、このような状態で抗ウィルス薬を投与しても、水痘ウィルスは既に発症から
4、5日。外来受診まで約1週間経過した状態では、活性しきっており、その効果の期待も半
減以下となるので、初期からステロイドと並んで抗ウィルス薬の同時投与がまず行われる治療
が主流になった。
抗ウィルス剤は、ウィルスの増殖を防ぐ効果があるが、すでに滞在しているウィルスには無効。
4)予後
顔面麻痺以外の症状は、まもなく自然消失する。ハントの顔面麻痺症状はベル麻痺に比べ
て難治。自然治癒率3割。
顔面麻痺の鑑別診断
両側性: ギランバレー症候群の疑い
片側性:額の皺よせ可能:中枢性疾患(脳卒中、脳腫瘍など)
不能:外耳道の水疱あり:ハント症候群
なし:ベル麻痺