5.本態性高血圧 1)概念:老化に伴う細動脈硬化によっておこる高血圧。高血圧者の約8割。 2)病態生理 初期:ストレス→交感神経興奮→末梢血管収縮→血圧上昇(変動性) 慢性:高血圧→血漿成分が小動脈に浸透して細動脈硬化→さらなる高血圧 3)症状 初期の高血圧は、全身の細動脈収縮時に血圧上昇する易変動性。血圧変動時に自覚 症状を感じやすい。慢性期の高血圧は血圧が高いなりに一定で、自覚症状に乏しい。 4)現代医学治療 ①基礎療法 食餌療法:塩分制限、肥満防止(循環血液量を減らす目的) 運動療法:運動により高血圧が改善されることが科学的に証明された。 生活指導:ストレス、過労をさける(細動脈血管の痙攣防止) ②薬物療法 β遮断剤(心臓を強く収縮させず、拍動数も減らす)、 Ca拮抗剤(末梢血管収縮を防止)。 ACE阻害剤(副腎からの血管収縮物質であるアンギオテンシンⅡの働き抑制) 6.本態性高血圧の鍼灸治療 本態性高血圧の機序は、ストレス→交感神経興奮→末梢血管収縮→血圧上昇である。
この連鎖を遮断することが降圧の針灸治療になる。前記した薬物作用機序になぞらえて 表現すれば、ストレス改善、心臓拍出量と脈拍数の低下、末梢血管収縮防止といった方 法である。しかし動脈硬化が進行していれば、末梢血管の柔軟性は乏しくなり、末端ま で血液を送るには血圧を上げるしか方法がなくなる。これは器質的で不可逆的変化なの で、鍼灸で血圧値を下げるのは困難になる。 鍼灸に来院するのは慢性高血圧であることが多く、また高血圧者の90%以上はすでに 降圧剤を服用しているので、針灸で血圧降下が観察できない場合も多い。 1)洞刺 2)末梢血液循環の改善 ①五指間置針 五指間刺針(手足の指の間、左右上下合計 1 6ケ所)へ5分間置針。1寸0番針を用い、 赤白色肌の境からの長軸と平行に0.5~1㎝ 刺入する。末梢血管吻合部の血管運動神経を刺 激することで、末梢血管を拡大させて降圧させ る。とくに最小血圧下降する傾向にあった。 健常者には血圧下降作用はみられなかった。
②冷えの改善を目標とした施術 上下肢とくに前腕以下と下腿部以下に存在する「冷え」を治療目標とする。冷え は末梢動脈血流低下で生ずる。冷えのある四肢部に施術することが血圧を下げる。 前腕では手三里、曲池、沢田流郄門、下腿では中封、解谿、三陰交、照海、陽陵 泉などが好印象をもつ穴だが、これにこだわらず、上肢や下肢の冷えてコリコリし た部をねらうようにする。