脊椎分離症と脊椎分離辷り症
1)病態 正常脊椎でも、仙椎の関節面は、水平線から30°傾斜している。この傾斜角を腰仙角とよぶ。この傾斜があるためL5椎体は元来前方への力学ストレスが作用している。脊椎の上関節突起と下関節突起の間、すなわち椎弓根部が離れて椎体が分離したものを脊椎分離症とよぶ。 なお脊椎分離した者は、無症状者でも5%にみられるが、スポーツ選手は発生頻度が高い。 腰部椎間板の変性が著明になると、分離のある脊椎が、これより上位の椎体とともに辷っていくことがある。これを脊椎分離辷り症とよぶ。いずれもL4-L5間に好発する。 少年野球など、10代前半の頃の激しい運動が、分離・辷りの原因とされる。
2)症状 本症はX線にて診断されるが、多くの場合、患者の現在かかえる腰痛とは直接関係がない。 本症特有の症状はないが、腰椎前彎が増強するので、それにより筋々膜性腰痛や椎間関節性腰痛が生じることがある。
3)所見 階段変形、腰痛前彎の増強
4)一般治療:自覚症状がなければ治療の必要なし。自覚的な痛みの大半は別の機序による。
脊椎圧迫骨折
1)病態・症状 大部分は骨粗鬆症が基盤にあり、転倒やくしゃみなどをきっかけとして椎体が圧迫骨折したもの。受傷と同時に骨折部を中心とした激痛が生じ、座位ときには臥位変換も困難になる。 胸椎腰椎のX線撮影すれば圧迫骨折を確認できる。圧迫骨折は、通常安定骨折であり、脊髄症状を伴わない。老人や閉経後の婦人に多い。下部胸椎と上部腰椎に好発する。
2)所見 圧迫骨折部棘突起の圧痛や叩打痛(+)ときに発赤、熱感あり。 損傷部に相当する椎体の棘突起は突出する。
3)鑑別 脊椎圧迫骨折の原因の大部分は、骨粗鬆症であるが、カリエス(骨の結核)や癌の骨転移のこともある。←X線で鑑別
4)一般治療:痛みは安静臥床で略治する。亀背や円背が後遺症となる。
変形性脊椎症
1)病態 椎間板の退行変性により、椎間腔の狭小、椎体縁の骨棘形成などの骨変化をきたす病態。40歳以上の年齢層に多い。老人になれば変形性脊椎症と骨粗鬆症は、程度の差こそあれ、脊椎の変形は誰でも存在する。
2)症状 腰痛(とくに起床時痛、動作開始時痛)、老人性円背 下肢に行く神経を絞扼した場合には下肢痛や下肢のしびれ出現する。
腰痛の針灸不適応の判定
下腹部内臓疾患による腰痛は、原則として針灸不適応であり、運動器疾患による腰痛は針灸適 応である場合が多い。両者の鑑別は、おおまかには次のように行う。 運動器疾患:体動時痛。限局性の痛み(指頭で痛む部を示すことができる) 内臓疾患:安静時痛。傷む部は漠然としている(手掌で痛む部を示す)
腰痛症状 高熱(39℃以上、血尿):腎盂腎炎 安静時にも痛む:痛み感受組織(漿膜など)への侵襲加速度に比例 前立腺癌、尿路結石、卵巣膿腫、卵管炎、子宮癌、子宮筋腫、子宮内膜症など 針灸での鎮痛持続作用時間が極端に短い:癌
針灸適応の腰痛 腰下肢痛を除外すれば、腰痛の直接原因は、第一に脊髄神経後枝の興奮があげられ、後枝 痛に対する治療が重要になる。