ベル麻痺
1)原因
特発性末梢神経性の顔面麻痺。顔面神経管内における顔面神経の浮腫(ことに顔面神経管の
末端や茎乳突孔付近に障害)が原因として想定されているが、最近では単純ヘルペスウイルス
の再活性によるという説が有力となった。突発的で急激に発症。最も高頻度な顔面麻痺。
単純性疱疹とは:単純ヘルペスウィルスによる。幼少の頃に感染するが、神経細胞に潜み込んで症状の出ないことも多い。免疫力低下すると皮膚に症状出現する。1型は唾液から感染、口唇部のヘルペスとなる。
2型は性行為から感染し、外陰部や殿部のヘルペスとなる。終世免疫ではなく、何回も感染する。
ベル麻痺が6~7割、ハント症候群は1~2割で、両者を併せると約8割になる。
2)症状
①顔面表情筋の麻痺
a.前頭筋麻痺
麻痺側の額のしわ寄せ不能
b.眼輪筋麻痺
閉眼不能。
麻痺側の白眼が残る。
・兎眼→眼が大きく開き、閉眼困難
となる現象
(ウサギには瞼がなく常に開眼状態)
・ベル現象→強く閉眼を試みると
眼球が上方回転する現象。
眼輪筋麻痺による。
健常者でも強く閉眼すると、角膜保護のため眼球が上方回転するが、閉眼していて観察できない。
眼を閉じる作用は眼輪筋(顔面神経支配)、眼を開ける作用は上眼瞼挙筋(動眼神経支配)。
要するに、顔面麻痺では完全には閉眼できず、動眼神経麻痺では完全には開眼できない。
眼瞼下垂を起こすのは、①動眼神経麻痺、②ホルネル症候群、③重症筋無力症の3疾患。
c.皺眉筋麻痺→眉間の縦ジワ消失。
d.大頬筋麻痺→:笑う際の頬の挙上困難。
e.口輪筋麻痺→地倉(胃):口笛が上手く吹けない、口をすぼめない
②聴覚過敏←アブミ骨筋神経症状
③涙の分泌障害←大錐体神経症状
④味覚障害、唾液分泌障害←鼓索神経症状
⑤眼輪筋・角膜反射の消失
角膜反射とは、角膜(黒目部分)を脱脂綿の先などで軽く刺激した際、正常ならば迅速に眼輪筋の作
用で閉眼する現象である。求心路は三叉神経、遠心路は顔面神経、反射中枢は橋。したがって顔面神麻
痺では眼輪筋が麻痺した結果、閉眼不能となり、また三叉神経第1枝の麻痺でも角膜反射消失が起こる。
3)ベル麻痺の治療
発病当初は、副腎皮質ステロイドの毎日の点滴、場合により連日の星状神経節ブロック。
期間が経つにつれて間隔をあけてゆく。
4)ベル麻痺の予後
3週問以内に回復が始まり、8割は自然治癒する。長い人で半年以上、治癒や回復にかかる
人もいる。残り2割は麻痺が残存する。
顔面神経麻痺後の病的共同運動が残る者もいる。たとえば、閉眼すると口が動き、口を開閉
すると眼も閉じる、食物を食べると涙がでる(=ワニの涙現象)などで、とくにパルス治療し
たり、努力して顔面麻痺筋を動かそうとする動作で、これが助長される傾向がある。
重症度と治療効果の判定には、「40点柳原法」が広く用いられる。