4)骨盤内循環不良 ①病態生理 女性の骨盤内臓器は、男性のそれに比べて、構造的に循環障害をきたしやすい。その典型 的所見は、左下腹部にみる小腹急結の腹証であろう。骨盤内瘀穴血があると、それより末梢の 血流も悪くなるので、腰から下の下半身全体に冷えが出現しやすい。さらに骨盤内瘀血は、 婦人科疾患や不妊症などの素因を形成する。 ②治療:骨盤内瘀血の改善を目標とする。 a.漢方薬の駆瘀血剤(桃核承気湯、加味逍遙散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸など) b.下腹部、腰部、仙骨部を中心とした鍼灸治療 3.機能的冷え症と日常防寒対策 疾病に附随する「冷え」は少数派であり、多くは非器質的な原因による冷えである。 冷えの感受性は、次の機序になると思われる。 代謝亢進、筋ふるえ ↑ 外気温低下→ 寒さのセンサー(首、手、足)が感受→ 「寒さ」の大脳皮質認識 ↓ 手足の末梢血流量低下 ①「寒さ」知覚の鈍化 「身体が冷える」とする感覚は全身的なものだが、とくに首・手掌・足底の、寒冷の知覚に よる。寒く感じないためには、マフラー、手袋、厚手靴下の着用を行う。 マフラーの効用:首には温度を感じるセンサーがあり、首が温まれば視床下部は、現在の外気温は 温かいと判断し、四肢の動静脈吻合が閉じ、血液は末端まで回る。 ②体熱を逃がさない工夫 末梢動脈血管壁には自律神経がまとわりついており、寒冷時は生理的に交感神経が興奮し て血管壁の筋を収縮させ、内腔を狭めることで熱が逃げるのを防いでいる。核心温度を維持 するためであり、その犠牲として手足が冷えることになる。熱を逃がさない工夫として、日 常では厚着や腹巻きが行われる。
③熱量生産不足 体幹部核心温度低下防止のため、身体の産生熱量を増加させようとする。体温を作り出す 源は内臓(とくに肝臓)と骨格筋(ふるえ熱)であるが、代謝亢進するためには、甲状腺刺 激ホルモンや副腎髄質のカテコルアミン分泌が増加する。 日常的には、身体運動(ジョギングやスポーツ)による骨格筋からの熱エネルギーが知ら れる。また外部から熱補給のため、温熱カイロの使用、温かい食物の摂取が行われる。 足指体操:足指で、グーチョキパーの動作をする。左右個別に10回。両方一緒に10回。 足指間に手指を挟んで広げる(10秒間)、手指で足指を握る(10秒間) 4.冷え症の鍼灸治療 「冷え症は東洋医学の適応症」だとは、よくいわれる言葉だが、ではどのように治療するかと なれば、漢方薬とは異なり針灸では統一見解がない。実際のところ、血管運動神経失調である冷 え症は針灸治療苦手とする疾患の一つなのであろう。 冷え症の3大原因は、①熱を造れない、②熱が回らない、③熱が逃げることであろう。日常的 な衣類による防寒は③の方法をとる。針灸治療で、動脈血管壁刺針や筋パルス刺針などは②の血 流問題に働きかけるものであるが、実際の治療効果は、あまり得られないので、結局、①の問題 に重点的に働きかける方法しかない。とはいえ、基礎代謝上昇ホルモンに直接働きかけることは 困難である。物理的熱エネルギーを与えることと、末梢血管拡張目的として副交感神経緊張状 態にもっていくことの2点からのアプローチする。 1)腰仙部の長時間温補 治療室内は適温に保つ。伏臥位にて腰仙部を露出させ、赤外線(または遠赤外線)照射を実 施する。照射部以外は頭部を除き、バスタオルで覆う。深部までの加熱を行うため照射時間は 20分またはそれ以上必要である。このため結果的に照射熱は弱めがよい。施術後は、足部温が 上昇するのは当然であるが、照射後もしばらくは足ポカポカ状態が持続する。 灸頭針や箱灸でも可能だが、20分間の温熱治療という点で実施困難であろう。 ※仙骨部へのこんにゃく温灸 尻の両側、そして背骨の両側は肉が盛り上がっており、温めても熱が深部まで浸透しない から温補するには殿部より仙骨部が適している。 コンニャクを丸ごと鍋に入れて沸騰させ、沸騰後は沸騰温度を保ちながら火加減をゆるめ て10分ほど煮る。これをタオルでくるんで、伏臥位にさせた患者の仙骨部に置く。 お尻がホカホカして気持ちいいぐらいの温度で、20分間温める。週に1回ほどこの治療を 繰り返す。こうして尻はホカホカになるが、足の血管が流れなくては、お尻から先に血液が 流れず、中継ぎとして、三陰交にも灸(コンニャクでも千年灸でもよい)。 腰仙部の多壮灸 冷え症には、腰仙骨部の経穴を数カ所(たとえば、大腸兪や次髎)選び、多壮灸する。 他の治療を行う暇があるならば、壮数を増やすことを考える。