冷え症 1.四肢温度と核心温度 恒温動物の深部温度(=核心温度)は、内部環境保 持のため一定温度(ヒトでは3 7℃)に保たれている。 四肢の体温は末梢に近いほど外気温に平行して下降 する変動性がある。これは限られた熱エネルギーのや りくりの中で、内臓活動機能に不可欠な核心温度を一 定に保持するための犠牲だといえる。 「冷え症」とは疾病であり、「冷え性」とは体質傾向を さす。厳密には「冷え性」が好ましい。 2.器質的疾患に付随する冷え症 体温の調節は、①皮膚のセンサー、②視床下部(女性ホルモン、自律神経中枢)、③血液の 流れの3点で決定されている。 循環器疾患:レイノー病、SLE、低血圧 ※「R」で始まる膠原病以外、すなわちRA(慢性関節リウマチ)とRF(リウマチ熱)以外すなわ ち、SLE、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発性血管炎ではレイノーが出現する。 血液疾患:貧血 内分泌疾患:甲状腺機能低下症、黄体ホルモン不足 神経疾患:末梢神経炎、多発性神経炎 1)低血圧 眠っている間は、冷え性の人も手足の末梢血管が拡張しているため、健常者では冷えはなく、 寝覚めは比較的楽なはずである。朝がつらい人は低血圧による冷えを考える。心臓ポンプの力 が乏しいので、末梢の血管まで血液を届ける勢いがないことによる冷え症である。 2)貧血 貧血の結果、各器官に送られる酸素濃度が薄いため、細胞での栄養燃焼が不完全になり、全 身を効率よく暖められないので、全身の冷えが出やすい。 3)ホルモン分泌不足 ①甲状腺ホルモン分泌不足 老人性の冷え症、甲状腺機能低下症の者の冷え症に該当。甲状腺機能低下症では、 いわゆる腎虚(易疲労・冷え・徐脈・色黒顔貌)的症状が出現する。治療は補充療法 として甲状腺ホルモン剤投与。対症療法として鍼灸は速効するが持続効果に乏しい。
②カテコルアミン分泌亢進 副腎髄質からはカテコルアミン(アドレナリンとノルアドレナリンの総称)が分 泌される。ともに交感神経緊張作用。過剰分泌状態となる機能的疾患はストレス、 器質的疾患には褐色細胞種(若年者の易変動性高血圧)がある。 アドレナリン:恐怖に関係。心拍促進と血糖上昇作用 ノルアドレナリン:激怒に関係。末梢血管収縮作用→冷え ③黄体ホルモン不足 黄体ホルモン分泌増大が、成熟女性における基礎体温の高温期をつくる。黄体ホ ルモン分泌開始期である思春期女性と、分泌終了期である更年期女性では、ホルモ ン分泌が不安定となるので、冷え性になりやすい。 <治療>女性ホルモン剤投与。ただし思春期や更年期にともなう女性ホルモンの増減は、自然な変化でもあ るので、意識の持ち方や自律神経訓練でもある程度改善する。更年期障害の女性に、実際に女性ホ ルモンのエストロゲン注射をすると、のぼせ・ほてり・発汗亢進に効果的である。一方、 疲労感・無気力・冷え性、不眠に対しては、男性ホルモンの代表格であるテストステロン を隔日に3回程度注射することが知られている。 男女の男性ホルモンの比率は女2:男3であり、女性が極端に低いわけではない。 65才以上になると男女とも男性老化が進むが、これは両性とも男性ホルモンの減少による もの。長期間(1ヵ月以上)テストステロンを注射すると声が低くなり脛毛が濃くなるなど の副作用が出現する場合があるが、3回程度では副作用はまず起こらない。 これは不足したホルモンを補うための治療(補充療法)ではなく、ホルモンのもっている 自律神経調整作用によって治ると考える。補充療法ならば長期間継続した薬物投与が必要な ので。 <冷え性を伴う疾病の鑑別> 冷え性の訴え 朝の寝覚めがつらい→低血圧症 動悸、息切れあり→貧血 婦人科手術後、更年期女性、発汗過多、のぼせ→更年期障害 徐脈、肥満傾向、色黒→甲状腺機能低下症 機能性の冷え症