凍結肩(狭義の五十肩) 1)凍結肩の推移 上腕二頭筋長頭腱々炎肩腱板炎肩腱板部分断裂 炎症範囲拡大発症後2週~2ヶ月 肩峰下滑液包炎(肩の強い自発痛、夜間痛)←凍結肩急性期 水分消失により滑液粘性 が増大し腱骨に付着 発症2~4ヶ月 癒着性腱炎癒着性滑液包炎(肩の運動時痛、運動制限) ←凍結肩慢性期 炎症が肩関節全体に波及 癒着性関節包炎(=凍結肩) (疼痛消失、運動制限持続) ←凍結肩回復期 凍結肩完成後6ヶ月~2年 自然治癒(運動制限は完全には消失しないこともある) ①急性期(疼痛期) 上腕骨頭を上方に引っぱる三角筋と、首側に引っぱる棘上筋は、協調して上腕を挙上する 役割がある。この2筋は加齢とともに退行変性して筋力低下するが、腱板の老化が早期に起 こるので、相対的に上方牽引力が強くなる。すると上腕外転時に上腕骨大結節は肩峰の下を 通過できずに衝突し、外転90°前後の運動制限が生ずる。 また肩腱板に生じた腱炎は、すぐ上方にある肩峰下滑液包に炎症を拡大させる。肩峰下滑 液包炎が起こると、強い自発痛が出現し、とくに夜間痛を訴える。
滑液包とは、袋状の軟らかい組織で、関節運動をスムーズに行わせるためにある。過使用や外力により滑液包に炎症が起こると、貯留液が増加する。
治療:肩峰下滑液包や肩腱板の炎症を取り除く目的で、温熱療法やブロック注射が行われ る。ブロック注射は速効あるが持続効果は3日程度である。定期的に注射すると徐々に 滑液包の炎症が鎮静化する。
②慢性期(拘縮期) 肩峰下滑液包炎は、数ヶ月から1年を経て、炎症が徐々に治まり自然治癒することもあれ ば、癒着性滑液包炎に進展することもある。 炎症が自然消退する過程で、元来はゼリー状だった滑液は、水分が失われて接着剤様にな り、腱や骨に癒着し、上腕の運動制限が起こる。 炎症が消退すると運動時痛は消失するが運動制限は持続する。これを癒着性滑液包炎とよ ぶ。癒着が滑液包のみにとどまらず、肩関節包全体に及べば癒着性関節包炎となり、肩関節 拘縮が生ずる。 治療:運動療法(コッドマン体操など)
③回復期:疼痛、運動制限の回復期のこと。 凍結した肩関節が、なぜ自然治癒するかの理由は分かっていない。 関節の癒着は自然消失した訳ではない。老化した部分に合わせるように他の部 分の機能を低下させることで体全体のバランスを取り直した 疼痛期(急性期) 拘縮期(慢性期) 回復期 発症からの期間2週~2ヶ月2~4ヶ月3~6ヶ月(ときに2年以上) 痛み自発痛運動時痛疼痛(-) 可動域制限痛みによる可動域関節拘縮により徐々に可動域が拡大 制限あり動かない 4)診断 ①50才前後である。 ②肩関節のROMの制限(自動、他動とも)。とくに外転、外旋運動 が制限受ける。 結帯動作 肩関節の伸展・内旋の複合動作。帯を結ぶ時のように手を腰に回 し、できるたけ上方に移動させる。母指とC7棘突起間の距離を 測る。 結髪動作 肩関節の外転・外旋の複合動作。髪を後で結ぶように、手を後頭 部に回す動作ができるか否かをみる。中指と同側の肩甲骨下角の 距離を測る
③上腕骨引き下げテスト(-) 上腕骨を強力に下方に引き下げ、肩峰と上腕骨頭と の間に生ずる間隙を触知するテスト。間隙の拡大を触 知できるものを陽性ないし正常、できないものは陰性 とする。 このテストが陰性のものは狭義の五十肩(=凍結肩 で病期には無関係)であり、陽性のものは五十肩以外 もしくは正常である。 厳密に言えば狭義の五十肩であっても若干は拡大を触知できる まったく動きを触知できない場合には、関節癒合(結核など) を考える。 ④肩甲上腕リズムの異常 肩関節の外転始動約30 °までは棘上筋が収縮し上腕骨を内側方向へ引っぱりながら持ち上 げていく。そこから三角筋が収縮をはじめ、上腕骨と肩甲骨の角度の関係が2:1の割合で連 動しながら動いていく。上腕骨の外転角度は、肩甲骨の上方回旋運動+肩甲上腕関節外転運動 の総和になる 凍結肩などで、肩甲上腕関節の外転がまったく不能の場合であっても、代償的に肩甲骨の 上方回旋角が増加するので、上腕の外転は60 °程度は可能になる。 凍結肩で、肩関節の他動ROM 制限がある場合、肩甲上腕関節の外転制限角は、「肩甲上腕関節」 -「肩甲骨上方回旋角」の値になる。