肩関節痛の鍼灸治療 凍結肩以外の肩関節部痛の針灸治療は上腕前面痛に対する上腕二頭筋長頭腱と、 肩関節部痛に対する棘上筋腱が効果的で、これで効果不足の場合に補助として他の鍼灸 を追加することが多い。
頸部治療 肩関節部の症状が、実は頸部が問題となって生じていることは多い。頸神経のC5~ Th 1は、 腕神経叢として肩関節の運動と知覚を支配している。また肩関節部の皮膚は頸神経後枝の支配で ある。肩関節痛症状において、頸部の関与の有無を判定するには、座位にて頸椎の徒手牽引を行 い、その際に肩関節痛や肩関節可動域の改善がみられるかどうかを診るようにする。
三角筋前部や三角筋粗面部の痛み 症状:上腕挙上時の、三角筋前部線維や三角筋粗面部の痛み。 痛みを我慢すればROM正常。 病態:三角筋前部線維は上腕前方挙上時の主動作筋であり、上腕の前方挙上時には筋の伸張時 痛が好発する。
6.神経ブロックの応用 激しい疼痛があれば、痛む部を直接刺激することは症状を悪化させることが多いので、局所治 療はごく軽い刺激にとどめ、肩関節痛をもたらしている知覚神経を刺激するとよい。
肩甲上神経刺激 ①肩甲上神経支配 棘上筋、棘下筋を運動性に支配。肩関節包の上部と後部の知覚支配。皮膚支配なし。 ②適応 炎症期(五十肩前期)は運動時痛が強く、とくに夜間の自発痛が非常に強いのが特徴で ある。この痛みは、肩関節包の炎症に加え、その上方にある肩峰下滑液包への強い炎症に よるが、これらの痛みは肩甲上神経が伝達している。
腋窩神経刺激 ①腋窩神経の支配 腕神経叢より起こる。後方四角腔の中で肩 関節包に知覚枝を出した後、2枝に分岐する。 浅枝:小円筋を運動支配。その後に、三角筋 下縁を迂回して皮下に出現。 以後は上外側上腕皮神経と名を変え、上腕 部の近位外側の皮膚を支配する。 深枝:三角筋を運動支配 後方四角腔:肩甲骨、上腕骨、上腕三頭筋長頭、 大円筋で囲まれた間隙。直上には小円筋がある。 上腕外転位では、この間隙が狭まり、腋窩神経が 圧迫されやすい。
拘縮期の治療 1)モビリゼーション
モビリゼーションとは、整体手技の一種で、瞬間的矯正をかけることなく、関節に細やかな 運動を繰り返し与え、硬直した関節部分を動くように回復させたり、痛みを軽減させるテク ニックのことをいう。関節モビリゼーションともいう。 <癒着をゆるめ、肩関節腔を拡大する手技> 凍結後であれば通常の針灸では治療法に乏しく、ROM拡大を目的とする手技療法が主体と なる。下方関節包が短縮していたり、腱板の骨頭を関節窩に引きつける求心力が低下している 場合、自動運動で上肢を挙上すると、骨頭の下方移動が障害され、上腕骨頭を包む腱板と、こ れを上方から覆う烏口肩峰アーチと衝突が生じ、運動痛を誘発したり、この部分の炎症を生じ させる。 この衝突を避けるため、上肢の長軸に沿った遠位方向への牽引力、もしくは徒手的に骨頭の 下方移動を働かせながら可動域を拡大する方法が考案されている。
①仰臥位で患側上腕を45 度程度外転位にして上腕を両手で保持する。 ②患者の腋窩にバスタオルを挟み、施術者の足指を患者の腋窩に入れる。 ③患者の上腕を外旋力を加えつつ長軸方向に引っ張り、痛みを訴える直前まで外転角を増す。 ④この動作を10 ~ 20 回程度行う。