靱帯損傷
1)膝の靱帯の役割 膝には大きな体重負荷がかかるので、関節は強力に靱帯補強されている。前方への動揺防止 目的に前十字靱帯、後方への動揺防止目的に後十字靱帯がある。外反動揺防止に内側側副靱帯、 内反動揺防止に外側側副靱帯がある。
2)側副靱帯損傷
①原因 a.内側側副靱帯損傷:膝の靱帯損傷の8割を占めるのが内側側副靱帯損傷。外反が強制さ れて発症する。 複合損傷としては、内側側副靱帯損傷は、前十字靱帯損傷と合併が多い。これら2者 に内側半月板損傷が加わったものが、膝の代表的な重症な外傷で(不幸の三角形)とよばれる。 なお単独の損傷でも、側副靱帯損傷は外側より内側が多く、十字靱帯損傷は後より 前が多く、半月板損傷は外側より内側が多い。 b.外側側副靱帯損傷:頻度は少ない。膝の内側から外力が加わり、内反が強制されて起こ る。またO脚など膝の内反変形に伴い、疲労性炎症としても生ずる。
②症状・所見 膝の疼痛、側方不安定感、靱帯部の圧痛がみられ、陳旧化すると動揺関節を呈する。 第1度:靱帯線維の一部断裂。 外反・内反強制テストは正常。不安定感なし。 保存療法実施。針灸適応。 第2度:靱帯断裂あるが連続性あり。 膝30 度屈曲位にての強制内反外反テスト(+)、 膝伸展位では正常。保存療法にて治療 第3度:靱帯の完全断裂で不安定性がある。 膝伸展位にての強制内反外反テスト(+)。 普通は保存療法でよいが、手術の適応になることもある。
③内反強制試験と外反強制試験(ベーラー徴候) 方法:膝の側面に手を置いて支え、他方の手で足首のところを内方あるいは外方へ押して 内反および外反を強制し、疼痛および移動性を調べる。 意義:内反強制時→膝外側に痛み:外側側副靱帯牽引による痛み 膝内側に痛み:内側大腿脛骨関節面または内側半月板の損傷 外反強制時→膝内側に痛み:内側側副靱帯牽引による痛み 膝外側に痛み:外側大腿脛骨関節面または外側半月板の損傷 完全伸展位にして実施すると、十字靱帯緊張のため不安定性が出にくいので、 30°屈曲位で内反・外反強制試験を実施するとよい。 側副靱帯は比較的血行があるので、装具着用などの保存療法が行われる。
十字靱帯損傷
症状・所見:前十字靱帯損傷は、ジャンプ時の着地や、急激なストップ、ターンなど、非接 触損傷が特徴である。後十字靱帯損傷の頻度は少ない。 損傷時は、激痛と関節内血腫(必発)が起こる。圧痛点は判然としない。前十字靱帯損傷 は、内側側副靱帯損傷に次いで多い疾患。
検査: a)前方引き出しテスト、後方引き出しテスト 方法:下腿上部前面(脛骨上部)に母指を、後面に四指を置いて把握し、前方へ引っ張った とき、あるは後方へ押し込んだときに、下腿が移動するかをみる。なおこのテストの際、 足部が動かないように足背部に検者の大腿(上図では殿部)を乗せて固定する。
意義:前方引き出しテスト(+)→前十字靱帯断裂 後方引き出しテスト(+)→後十字靱帯断裂 後方引き出しテストは、後方押し込みテストとよぶこともある。 b)ラックマンテスト方法:膝30°屈曲位で、検者の両手で大腿骨遠位部 と脛骨近位部を保持し、脛骨を前方に引き出す操作 を加える。
意義:ラックマンテスト(+)→前十字靱帯損傷 前方引き出しテストより診断価値が高い。
治療:スポーツを指向する患者には「靱帯再建術」手術の適応がある。スポーツをしない場 合にはまず保存的治療が適応されるが、他の靱帯組織や関節包に負担がかかり、後に日常 生活で膝くずれ感が発症することもある。