2)少沢刺絡
急性の心臓症状に対しては、古来から少沢や少衝からの井穴刺絡がよいとされてきた。しか
し鍼灸禁忌なので、実際には実施することはもちろん、こうした場面に
出会う機会はほとんどないと思われるが、次の発表が参考になるだろう。
急性心筋梗塞者に少沢穴刺絡(左右)を試みたところ、心電図、血圧、臨床症状がともに改
善した。
〈狭心痛に対する瀉血治療について〉
狭心痛の救急処置に対し西洋医学では、かつて瀉血が行なわれた。瀉血は歴史的に針治療の一
手段でもあった。なお古人は井穴刺絡を、急性心臓衰弱や発作性血圧亢進症のような心循環器系
疾患に対する救急処置として使用していたようである。指の爪甲根部はグロムス機構の代表点で
あり、全身のグロムス機構に刺激を与えることができる。グロムス機構とは、動静脈の吻合部に
よる物理的血圧検知装置。手頸足首、手足の指間に多く存在する。
①心兪付近からの大量瀉血
心筋梗塞の治験
発作後1週間は横臥できず座っていた。背部の心兪付近から瀉血を大量に行なうと心の負
担を軽くし、かつその付近に針治により、苦しさのため疲労硬直した筋肉を軟らかにすると
苦悶感は大いに軽減した。心鬱血、肺鬱血、鬱血肝の所見がとれると、それからの状態は非
常に改善され、15年経た現在でも元気で暮らしている
②尺沢から100g瀉血
尺沢は橈骨静脈部にある穴である。この部は古くから瀉血に使われたところで、上焦の実
証性の病に対して応用されてきた。狭心症発作のとき、あるい
は僧帽弁閉鎖不全の場合、尺沢より約100g瀉血すれば、肺の鬱血が取れて楽になるとのこ
とである。
③少沢刺絡
急性心筋梗塞者に少沢穴刺絡(左右)を試み、心電図、血圧、臨床症状がともに改善し
た。
2.心臓神経症の鍼灸治療
心臓神経症の疼痛発作時の1例。患者は呼吸困難や強い胸
痛を訴えており、死への強い恐怖感をもっていた。この患者は、医師による鎮静剤注射が奏効し
て不安発作から脱したのだが、試しに鍼灸してみようというような状況ではなかった。早急に鎮
静剤の注射を行うべきであって、針灸は不適であろう。
非発作時には、効果があるかもしれない。以下に心臓神経症に針灸が効果あったとする報告を
載せるが、「心電図上に異常がない左胸痛」をその診断根拠としているらしい。実際には、上部
胸椎の椎間関節症による体壁神経痛(疑似狭心症)である公算があり、心臓神経症とはいいづら
い。
心臓神経症の鍼灸治療
1.心臓神経症の病態
精神的な原因により生ずる心臓の機能的障害。発作時は、狭心様の心臓部疼痛がある。疼痛発
作とともに、脈拍増加または徐脈、呼吸性不整脈、期外収縮などが生じ、死への恐怖感が生ずる。
心電図検査なしには、器質的な心疾患と鑑別が困難なことも多い。