1)中国での治療法
病が眼の深部にある時は、眼の周囲部の浅刺は効果的ではなく、睛明穴と球後穴の深刺を採用するという。針は30 あるいは32 号の3吋。この2穴は30 分間置針する。抜針時、出血を防止するため、針根部を圧迫して3~4回にわけて小刻みに抜針するようにする。
1回の治療には上記2穴のうち一方を用い、毎回交代で使用する。
①睛明深刺
位置:内眼角
刺針:左手で眼球を圧迫しながら右手でゆっくりと直刺していく。もし針尖に弾力を感じたり、患者が痛みを訴えた場合は刺針方向を変えて再度刺入する。普通は1~ 1.5 吋程度で提插と捻転法を用いる。刺入後患者は眼球が外側へ突出した感じを覚え、眼球とその周囲に腫れぼったい感じがする。
解説:深刺すると上眼窩裂内に刺入できる。上眼窩裂とは眼窩の内方にある穴で、ここから
三叉神経第1枝と、眼球運動に関係する動眼・滑車・外転神経、眼静脈も出る。
そのすぐ上にある視神経管からは、視神経が出る。すなわち、眼の機能のほとんどすべて
は、上眼窩裂と視神経管を通過する神経が関与している。広範囲な眼科疾患の適応が期待できる部位である。
②翳明
位置:耳介の下方、完骨の下で耳垂と同じ高さのところ。(教科書=耳垂の後方で、乳様突起と下顎枝の間の陥凹部に翳風をとり、乳様突起の下縁で翳風の後方約1寸に翳明をとる)
刺針:翳明は乳様突起の下から眼球に向けて深刺すると目に響き、この響きが得られるとよく効く
主治:近視、遠視、夜盲、白内障
解説:翳明穴は、胸鎖乳突筋の停止部に位置する。中国で発見され、「色盲を治す」として以前にわが国でも話題になった。
翳明とよく似た部位に柳谷素霊の風池(移動穴)がある。患者を側臥位にして全身脱力させる。乳様突起後方に軟骨様の小突起を触れ、押圧するとコメカミに響く。寸6~2寸の2~3番針で、三角形の小隆起下を通過させ眼底の方向にゆっくりと刺入する。刺針深度は5分~2寸だが、側頭部または眼底への針響を得ることが重要である。
③球後(毛様体神経節刺針法)
位置:外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さ。
刺針:眼窩内に直刺、その後針尖を上内方に少し向け、視神経孔方向に刺入。患者は眼球が熱く腫れる感じを覚える。針の刺入時の注意は睛明の刺針と同様。
主治:神経萎縮、視神経炎、眼瞼麻痺および痙攣。
解説:「球後」には眼球の奥という意味がある。下眼窩裂は眼窩の外下方にある。下眼窩裂
からは眼窩下神経(三叉神経第2枝)が出て、すぐに眼窩下穴(=四白)を通過して頭蓋
外に出て、頬や上唇の知覚を支配している。この解剖学的構造からは眼疾患の適応は考えにくい。
しかしながら本方法では、眼球奥にある毛様体神経節を刺激できる。毛様体神経節刺針法とは、毛様体神経節は副交感神経性の神経節
(眼の栄養、分泌、疲労回復などの機能)であることから、この部への刺針が眼症状に試みる価値があると推定した。針治療により急速に視力が改善する、針治
療が眼底出血に有効である症例。
毛様体神経節刺針法の技法
眼耳水平面(眼窩下縁の最低点と耳孔最上部を結ぶ面)から、上向き角度約30 度、正中面に対する内向き角度約30 度で、眼窩下縁と外側縁の交点から、眼球の後方に向けて約3.5 ㎝内側上方へ刺入。1号針を用いた10 分間置針。軽く雀啄後に抜針。