2.筋々膜症
筋線維自体に痛覚はなく、筋膜に痛覚がある。炎症状態の筋は、筋膜に信号を送り、筋膜痛を生ず
る。筋膜痛は、とくに筋の伸張性収縮時(坂道を下る際の下肢筋など)にみられる。筋は一様に緊張する
のではなく、筋線維中にいくつかの硬結が出現する。ここを治療点として選ぶ。
代表疾患:いわゆる筋々膜痛症候群
治療手技:運動針法が優れている。
3.腱炎、腱鞘炎
腱の役割は、筋を骨に連結させることにある。筋に大きな力が加わった場合、筋の柔軟性が高ければ
腱に加わる衝撃は、穏やかなものになるが、筋が硬化し衝撃吸収能力が低下すると、腱へは短時間に大
な力が加わることになるので、最悪の場合には腱断裂を起こすこともある。
腱鞘炎による痛みは、腱と腱鞘間に生じた摩擦による炎症に由来するが、それが近傍を走行する知覚
神経に影響を与えた結果による。
一方、臨床点な観点として、「腱は痛むのか」は不明な点が多い。アキレス腱断裂であても痛みを感じ
ないことがあり、バネ指でも痛みは軽いわけである。結局、障害部位の近傍を走る知覚神経が影響を受け
て初めて痛みを感じるのではないか。ちなみに、ド・ケルバン病の痛みの直接原因は、橈骨神経皮枝の興
奮、すなわち皮膚に感じる痛みである。
代表疾患:腱鞘炎
治療法:腱炎や腱鞘炎の痛みが、皮膚への放散痛であることの確認は、撮診で行う。そして、撮痛部に
皮内針を数本行うだけで、痛みが消えることが多い。撮痛が広範囲にある時は、まず乱刺刺絡を行い、それでも残存する撮痛点に皮内針をする
上肢の神経麻痺と神経絞扼障害
1.腕神経叢麻痺
1)腕神経叢の解剖
腕神経叢は、C5~Th1神経根の前枝により形成される。腕神経叢から出る枝は、鎖骨の上部
では高さ別に上・中・下の3本の神経幹に統合される。鎖骨下部では末梢神経分布別に、
外側・内側・後の3本の神経束に再統合されて上肢に向かう
鎖骨上部 鎖骨下部
上神経幹(C5・C6の前枝・後枝)
鎖
外側神経束(上・中神経幹の前枝)
中神経幹(C7の前枝・後枝) 内側神経束(下神経幹の前枝)
下神経幹(C8・T1の前枝・後枝)
骨
後神経束(上・中・下神経幹の後枝)
2)エルブ 麻痺とクルンプケ麻痺
腕神経叢の神経絞扼障害には、上位神経幹障害(C5,C6神経)と下位神経幹障害(C8,Th1神
経)、全位麻痺(両者の合併)の3種がある。
頚部が伸展され,肩甲部が下方に牽引されると、上位型麻痺(=エルブ麻痺)が起こり、上肢
が挙上位のまま牽引されると下位型麻痺(=クルンプケ)麻痺となる。
オートバイ事故など強大な外力が加わると全型麻痺となる。全型では脊髄神経根が脊髄から
引きちぎられ,硬膜外に引き抜かれた状態(神経根引き抜き損傷)になる。全型は中枢神経損
傷に属し、手術の適応はなく神経再生も望めない。
分娩のときに不自然な肢位で牽引力が加わって腕神経叢麻痺を起こすことがある。これを
分娩麻痺とよぶ。上位型麻痺に属し、自然に回復するものが多い。