4.肛門裂創(裂肛・切れ痔)
1)概念:排便の際の肛門部外傷
2)原因:硬い便をいきんで排泄する際、肛門裂創となる。
破れるのは歯状線と肛門の縁との1.5㎝くらいの間の肛門上皮。
3)症状:排便時の激痛と出血。排便時の痛みと、その後しばらく続く痛み。
陰部神経の興奮→内括約筋の痙攣→これが刺激となってまた痛む
4)経過:大部分の者は、座薬や軟膏で便を軟らかくしておけば自然治癒する。硬い便
を繰り返し出すと同じ箇所が何回も切れ、傷が便に汚染され感染を起こし、慢性
裂肛(=肛門潰瘍)となる。そうなると排便時に肛門は拡張にくくなり、さらに
切れやくなる(=肛門狭窄症)という悪循環が生じる。この場合には潰瘍部分の切
除が必要となる。
見張りイボとは
慢性裂肛周囲の粘膜は硬くなり、患部直下の皮膚はタコ状になる。切れ痔が悪化している時
に大きくなるので、悪化のサインとなる。見張りイボ自体は、治療の必要はない。
5.鍼灸院における痔疾の診察
痔疾の治療で、最も注意すべき疾患は大腸癌や直腸<痔疾の3大疾患>
癌である。「大便に血が混じる」という訴えのみで痔核:循環障害(1/2)
は、癌と痔疾と区別がつかない。直腸癌やS状結腸癌痔瘻:細菌感染(1/4)
に痔疾の合併しているケースもある。疑わしい場合は肛門裂創:物理的外傷(1/4)
直腸内診を依頼すべく、専門病院に転送する。
1)痔核や裂肛:排便時の痛みと出血、便に血が混じると訴える。
便通異常なし(排便時の痛みの恐怖から排便を我慢し、便秘になることがある)
R/O:直腸癌、S状結腸癌→進行性の便秘ときに下痢、細い便、粘血便
2)痔瘻:肛門周囲の痒み、下着が汚れる
R/O:外陰部掻痒症
外陰部から肛門にかけて頑固な掻痒感を訴える。視診上変化はない。更年期障
害明のホルモン異常、妊娠、アレルギー、糖尿病、精神的因子など。
6.痔疾の鍼灸治療
1)鍼灸の適否
痔核は治しやすく、脱肛は非常に治しにくい。裂肛は治しやすいものと治しにくい
ものがある。痔瘻は不適応で、手術しかない。
2)鍼灸治療
痛みの直接原因は、肛門を知覚運動支配している脊髄神経である陰部神経の分枝である
会陰神経の興奮による。この神経が排便動作によって物理的刺激を受けると、その刺激で
内括約筋が痙攣を起こし、これがまた刺激になって痛み続ける。切れ痔の痛みはこのため
である。痔核は肛門周囲の静脈叢鬱血により、静脈瘤ができることによる(従来説)。
鍼灸治療は、肛門周囲に分布する静脈鬱血を改善させることと併せ、陰部神経興奮を緩
和する目的で行うのが普通である。
①骨盤神経刺激:内肛門括約筋の
運動は骨盤神経中に含まれるS1~S3副交神経支配であ
る。S1~S3後仙骨孔(上髎・次髎・中髎)を刺激する。
②陰部神経刺激:外肛門括約筋の運動と肛門部知覚を支配するのは陰部
神経なので、上髎・次髎・中髎や陰部神経刺針を行う。
③局所刺激:肛門付近の静脈鬱血に対しては、肛門周囲刺針、痔核
自体へ施灸する。
④特効穴
a)百会の灸
小児の脱肛に効果あり。大人には効果は少ない。弛んだ肛門を引き締め吊り上
げる。
b)沢田流孔最
取穴:尺沢から太淵までを1尺と定めた時、尺沢から3寸下方で手三里より1寸
側方で腕橈骨筋上。最高過敏点の硬結を取穴する。痔核の位置によって本穴の
圧痛は移動する。左右を比べ、圧痛の強い側を取穴。
標準孔最は尺沢から太淵までを1.25尺と定めた時、太淵から上7寸。したがって沢田流孔
最に比べ、標準孔最は末梢側になる
適応:
痔痛、痔核、痔出血、痔瘻、裂肛、脱肛に効くが、脱肛には効かないこ
ともある。灸治が適する