④直腸~肛門部の静脈環流
直腸上直腸静脈(内痔核の鬱血):下腸間膜静脈を介して肝臓に至る
脈叢中直腸静
脈下直腸静脈(外痔核の鬱血) 下大静脈を介して心臓に至る。
肛門は、上直腸静脈を通じて肝臓と、中・下直腸静脈を通じて心臓とつながって
いる。これらの静脈には逆流弁がないことで、妊娠後期などで心と肝に行く静脈が
2系統とも圧迫されると、直腸静脈叢の鬱血が増す。
1.痔核(いぼ痔)
1)原因
①静脈瘤は関係が薄い?
痔核が生ずる原因について、従来は血管起源説で説明されてきた。血管起源説と
は、直腸下部と肛門にある静脈瘤であり、静脈瘤の生ずる原因として、排便時のイ
キミにより、一時的に静脈血流が止まるのだという説明である。しかし肛門部の静脈
瘤は誰でも存在し、便のストッパーとしての役割を果たしていることが明らかとなった。
②支持組織減弱説(現在の主流)
大便の摩擦により静脈瘤の支持組織が滑脱した結果が内痔核だとする認識。
痔核が生じる場所である肛門管内の粘膜下には、多数の血管や筋肉、弾性線維からなる
肛門のクッションが存在している。この肛門クッションが、排便時に肛門の外に押し出さ
れたり、怒責することで充血すると、肛門管の下にある粘膜や肛門括約筋に固定し、粘膜
下の血管を支えているトライツ筋が引き伸ばされて、弾性線維が切れ
てしまい、肛門クッション自体が大きく脱出や出血をきたすようになるとする。
2)外痔核と内痔核の比較
頻度患部痛み出血重症度
外痔核少ない歯状線の下側あり止血しやすい(血栓できやすい) 重症はない
内痔核多い歯状線の上側なし止血しにくい(血栓でききにくい) 軽度~重度
3)内痔核
①症状:粘膜部の障害なので痛み(-)。出血は止まりにい。
②内痔核の好発部位
上直腸静脈が枝分かれしたところ。肛門を時計にみたてると、3時、7時、11時の位置に内痔核ができやすい。
③重症度
・脱肛:肛門クッションが元の解剖学的位置から引き離され弛緩し,下垂して肛門外へ飛
び出した状態。内痔核のⅢ度以上のタイプに生ずる。脱肛はすぐに中に戻れば痛
みはないが、戻らない状態が続くと腫れて内出血を起こし、強い痛みが生ずる。
④治療
・保存療法:
循環改善の目的で、使い捨てカイロ等で肛門を温める。
ALTA(ジオン注射)療法:硫酸アルミニウムカリウム及びタンニン酸を主成分と
する画期的な痔核注射法で、平成16年7月に承認された。第4度の内痔核にも適応があ
る。痔の影響血管に注入し、血液量を低下させ、血管を硬化させる作用があり、弛んで
しまった直腸粘膜を癒着固定させることができる。
・神経ブロック:仙骨神経叢ブロック
・手術療法:硬化療法は効果的だが6ヵ月間の持続効果しかないので、最終的には手
術をする。ただし手術に至るのは、専門病院の来院患者の1/5未満。
3.肛門周囲膿瘍と痔瘻(あな痔)
1)概念:肛門の細菌感染症「瘻」とは直腸肛門管と交通のある管の意味
肛門周囲膿瘍とは、痔瘻に至る途中過程である。半数の者は肛門周囲膿瘍に留まり、
残りの半数は痔瘻まで進展する。
2)原因
肛門周囲膿瘍:①肛門小窩(歯状線の凹んだ部分)に糞便が付着→②炎症を生じて肛
門周囲に膿が蓄まる。
痔瘻に至る過程:③膿瘍が破れて後に管状になる→④管から細菌侵入し炎症。
3)症状
肛門周囲膿瘍:非常な痛みと発熱(排膿すると疼痛発熱はなくなる)
痔瘻:肛門掻痒感、下着がよごれる(下痢する者は肛門小窩が不衛生になりがち)
4)現代医学の治療:早期発見して早期手術する。痔瘻の治療はきちんと、管の入口と
瘻管を切除しないと再発する