虫垂炎と鍼灸治療
1.病態と症状
虫垂は回盲弁直下の盲腸に開口する指のような形をした突起である。虫垂は規則的に食物を取り込み、そして排泄しているが、その機能は不明である。免疫に関与しているという説もある。
虫垂炎の病理は、粘膜の潰瘍→閉塞(寄生虫、植物の種、糞石など)→拡張(内分泌貯留による)→炎症・細菌感染→穿孔による腹膜炎と移行する急性化膿性炎症である。
2.症状
腹痛、発熱、悪心嘔吐を主徴とする。初発は心窩部痛で始まることが多い。
虫垂の収縮と拡張が腹痛を生む。細菌感染や炎症が発熱や白血球増多を生ずる。
内臓痛期:痛みは心窩部にある。腸管の痙攣が症状を生む。
関連痛期:虫垂に強い炎症をきたせば、疼痛部位は下腹(Th11~Th12の前面)に移動して疼痛は激しくなる。
体性痛期:炎症が腹膜に波及すれば、患部に限局した強い痛みが出現。
ブルンベルグ(+)、筋性防御(+)
3.虫垂炎の圧痛点
①マックバーネー点:臍と右腸骨稜を結び、腸骨稜側から1/3の点
②マンロー点:臍と右腸骨稜を結び、臍側から1/3の点
③ランツ点:左右の腸骨稜を結び、右腸骨稜から1/3の点
④ラップの四辺形:臍と恥骨を結んだ線、臍からの水平線、右上前腸骨棘からこれと垂直に交わる点と右鼡径靱帯とに囲まれた四辺形(上図の網目部分)
⑤ローゼンシュタイン徴候:左側臥位で右下腹の圧痛点を圧迫すると、仰臥位で圧迫する時より強い痛みを訴える現象。
⑥ロブジング徴候:下行結腸から口側に向かって圧迫したとき、回盲部に疼痛を訴える。
4.虫垂炎の現代医学的治療
穿孔や腹膜炎への移行を回避するため、早めの手術による虫垂切除を行うことが多い。
5.虫垂炎の鍼灸治療
1)内臓体壁反射治療:右下腹部のTh11~L1領域の反応点刺激。背腰部の施術は不要。
2)遠隔治療
①梁丘:大腿神経刺激。大腿神経は腰神経叢から出る。腰神経叢L1~L3は、小腸
~大腸(S状結腸の手前まで)を支配している。
②蘭尾:足三里の下1寸。蘭尾とは中国語で虫垂のことである。虫垂炎の特効穴とし
て中国で発見された。強刺激を行う。
3)虫垂炎の鍼灸治療成績
中国の成績(上海、広東、桂林の各病院)によれば、針療法により92%に回復や軽
減をもたらすが、1年半後の追跡結果では、結局炎症が再発し、42%が虫垂突起の切
除を必要とした。
痔疾と鍼灸治療
1.肛門の解剖と機能
①肛門部は約2.5㎝ある。肛門を収縮させるため、内肛門括約筋と外肛門括約筋に二重の筋層に囲まれる。また肛門を持ち上げるため、上方に肛門挙筋がある。
②肛門外端から1.5㎝内側に、歯状線がある。歯状線は、便内容物が液状なのか固体なのかを判別し、便の硬軟も判別する機能がある。それゆえ体調不良時には、歯状線の判別力が低下するので、ガスを出そうとして便が出てしまうことがある。糸状線より上が直腸で知覚はない。糸状線より下が体外に分けられ、脊髄神経支配であって知覚に富む。
③肛門は直腸静脈叢の一部である内痔静脈叢と外痔静脈叢とで二重に取り巻かれる。排便でいきむと、少々血液が流れ込んで鬱血し、便が通るときのクッションの役割をしている