1.変形性膝関節症Osteoarthritis (膝OA)の概念 中年期(40台)以降、とくに女性や肥満者に、非常に多い退行性疾患で65才以上で急増す る。90 %が一次性(原発性)。二次性の原疾患としては、半月板損傷、靱帯損傷、化膿性関節炎、 関節リウマチ、骨折脱臼などがある。本症は針灸の最適応症だが、高度の膝関節変形は不適応で、 整形での手術療法しか方法はないようである。一般に75 歳を超えると針灸も効きが悪くなる
2.一般的な症状・所見
1)疼痛 ①初期:動作開始時痛(立ち上がりや歩き始めの痛み)。これは関節変形と滑液不足によ り動作に見合う関節の適合が不十分な結果、筋筋膜へ強い負荷がかかり、疼痛出現。 ②中期:運動痛。運動開始すると、次第に関節症状は楽になるが、長時間の運動では、再 び運動時痛を生じるようになる。これは関節変形そのものによる。 ③末期:歩行困難
2)関節可動域制限 正常膝屈曲ROM:屈曲135 °、伸展0° 膝の伸展や屈曲動作の終点では、靱帯や関節包が緊張し、関節軟骨の負担が大きい。 a)初期:痛みのためにROM制限。 b)進行期:関節面の変形、関節包の拘縮、筋力低下が原因。和式トイレや正座が困難
3)関節不安定性(ぐらつき) 半月板軟骨の欠損や骨の形態変化により、歩行時に膝が側方に ぐらつく。この現象をthrust(スラスト突っ込み)とよぶ。 一次性では前後方向の不安定性はみられない
4)内反膝(O脚)・外反膝(X脚) O脚やX脚はOAになりやすく、一方OAになればO脚やX脚を 進行させやすい。変形性膝関節症では内反膝(O脚)の者が多い。 ①内反膝の測定:仰臥位にして、両踵を接触させる。内反膝であれ ば両膝関節間は接触しない。この間隙に何本指が入るかを調 べる。指2本が入れば、「内反変形2横指」。 ②外反膝の測定:仰臥位にして、両膝を接触させる。外反膝では 両踵は接触しない。両踵間に指が何本入るかをみる。 指1本半程度であれば、「外反変形、1.5 横指」
※FTA(FT角):大腿骨と脛骨のなす角のことを、大腿脛骨角(FTA femoro-tibial angle)とよぶ。この角度の測定は、X線写真上で行う。 正常では外側の方が少し小さく、175 °~ 178 °である。この角度が小さ いものを外反膝(=X脚)、大きいものを内反膝(=O脚)とよぶ
5)大腿周囲径 疼痛→活動性の低下→筋萎縮という過程により、大腿四頭筋が萎縮する。大腿四頭筋の 萎縮の有無と程度を計測するには、仰臥位にして、膝蓋骨上縁から10 ㎝の部を、巻き尺で測 定する。大腿周囲径に左右差があると病的意義が大きい
<関節症の病理変化> ①関節滑膜の肥厚②関節軟骨の摩耗 ③関節裂隙の狭小④骨棘形成 ⑤O脚
関節包の痛みと針灸治療
知覚神経が興奮すると痛みを感じるが、知覚神経はどこも均一に分布しているわけではない。 骨は痛まないが骨膜は痛みを感じる。関節部においては、骨膜は関節包に移行するので関節包 も痛む。関節包は腱筋につながって関節と連動して牽引収縮されるので痛む。 関節包は外層と内層に区分され、外層を線維膜とよび、内層を滑膜とよぶ。線維膜は強靱で知 覚神経が分布し、滑膜は血管に富み関節液(=滑液)を産生分泌する。この関節液は、関節の潤 滑油および栄養液として機能している。 ※滑液は無色透明の液体で、ヒアルロン酸やタンパク質などを含み粘り気がある。滑液の粘度は温度によっ て変化する。温度が上がればその粘度は少なくなり関節自体の動きもスムーズになる