常見の便秘
痙攣性便秘と常習性便秘が常見の便秘である。高齢者には弛緩性便秘も多い。
1.痙攣性便秘(緊張性便秘)
1)病態
大腸運動を支配する迷走神経の過緊張のため、腸が痙攣し、下方に押し出せない状
態。便秘型の過敏性腸症候群。
2)症状
腹痛(+)。兎糞便。グル音増強。
胃-大腸反射が強いので、食後すぐにトイレに行きたがるが便は出ない。
左下腹のS状結腸部に強い痛みがある。
緊張性便秘者は、副交感神経緊張している。しかしその根本原因はストレスなので、交感神経緊張症も出現する。
2.弛緩性便秘
1)病態:横隔膜の衰えと大腸下垂
大腸管がたるみ、緊張力のない状態(運動性低下、腹圧低下)。高齢者や内臓下垂者(とくに横行結腸の下垂)に多い。横行結腸下垂の原因として腹筋力低下は重要
だが、横隔膜の筋力低下が問題にされている。横隔膜の筋力低下の原因としては胸式呼吸の習慣が指摘されている。これらの筋力低下があれば排便の時の便を押し出す力が弱くなり、腸の蠕動運動が弱まる。横隔膜は胃腸の状態や位置を正常に保つ役割がある。
2)症状
腸管に加わる圧力不足→腹痛(-)
腹痛なく便意は少ない。胃大腸反射も少なく自律神経の不安症状も少ない。要する
にすべてが鈍い。気持ちの影響もあまり受けない。下剤の効きも悪い。
鬱病や薬剤でも弛緩性便秘は起こる。
弛緩性便秘は常習性便秘と合併しやすく、とくに高齢者にその傾向が強い。
3.直腸性便秘
糞塊が下行結腸にある間は便意を感じず、糞塊が直腸に入って初めて便意を感ずる。
直腸性便秘は、排便は一応正常であるが、直腸部に糞塊が残り、常時残便感を強く感
じるものをいう。
1)骨盤底筋協調運動障害
トイレに入り、排便しようと腹圧をかけた時には、無意識に骨盤底筋を緩め、骨盤底筋が下降し、肛門直腸角が直線状になることで、便はスムーズに排出される。
排便時、洋式便器では上体を前方に傾斜させ、踵を浮かせた姿勢にすると、直腸-肛門間が直線状態になり、排便しやすくなる。排便のしやすさという点では和式トイレの方が適している。直腸性便秘者では、腹圧をかけるほど逆に骨盤底筋は緊張し、排便することができない。
この最新の治療では、肛門から直腸に特殊な風船を入れ、中で膨らませ、便のかわりに出すトレーニング(バイオフィードバック療法)をする方法をとる。平均5回程度繰り返すうちに骨盤底筋をうまく緩めるコツがマスターできる。
肛門部の筋には、内肛門括約筋(不随意筋)、外肛門括約筋(随意筋)、肛門挙筋(随意
筋)がある。肛門挙筋の下端部を恥骨直腸筋とよぶ。恥骨直腸筋は肛門を前方に強く引き
つけ、直腸と肛門間に屈曲(肛門直腸角)を形成する。