2.肝疾患に対する鍼灸治療の注意点と意義
主訴に関係なく、肝炎患者を針灸治療をする際に重要なことは、針に肝炎ウィルス抗原が付着するか否かである。感染者に使用した針は、破棄するなどの配慮が必要である。また術者は、自分自身への感染防止のため、ゴムの指サック使用や、自分の手指に間違って針を刺さないなど、細心の注意が必要である。
肝臓が痛むのは肝硬変や肝ガンの末期であり、それ以外はあまり痛むことはないので、
鎮痛目的に鍼灸を行うことはまずない。肝機能検査で容易に機能異常を知ることはでき、肝臓に一致して皮電点が右季肋部や右中背部に出現する傾向はあるが、鍼灸では肝機能検査値を改善できない。入院させて安静状態で点滴治療を行うと、肝機能検査のデータは次第に正常化するのが普通だが、自然経過というべきだろう。
肝疾患に対する針灸の意義は次のようになると考える。
1)肝障害は他内臓に悪影響を与えやすく(内臓ー内臓反射)、二次的に幽門痙攣、
胃腸蠕動運動異常、痙攣性便秘、吸収障害が起きやすい。これらに対して鍼灸の
適用がある。
2)東洋医学でいう「肝実証」を意味する体表所見や自覚症状、すなわち広義のストレ
ス症状に対して適応がある。肝実証の症状所見とは次のようなものである
①胸脇苦満
横隔膜反射所見と捉える。とくに左胸脇苦満は肝疾患と考えるのが普通。
→右期門、上不容、右日月など局所に刺針施灸する。
※胸脇苦満の者は、上肢の少海(心経)、下肢の中封(肝経)が腫脹している場合が多く、同時に胸脇苦満に対する治療穴となる。
②口苦、食欲不振
食欲不振は、内臓-内臓反射により肝が胃腸に悪影響を及ぼした場合や、門脈鬱血
で起こる。口苦の理由は現代医学的には精神的なものとされるが、東洋医学では少
陽病の代表的症状(胆汁は苦いので)。→胃腸疾患と同様に施術する。
③頭痛、いらいら、不眠、のぼせ、易疲労、微熱
迷走神経反応(→ゆえに耳肺区治療が直接的)だが、実際には自律神経失調症と考
えて治療することが多い。
「肝は筋をつかさどる」と漢方ではいわれる。これはワイル病等の観察から類推したものと思える。
ワイル病:動物、とくに感染ネズミの尿を媒介にした病原性レプトスピラによる急性発熱性感染症。
ストレプトマイシンが有効。適切な治療を行わなかった場合、致死率は20~40%。
胆道疾患と鍼灸治療
1.急性胆道疾患
1)発症と症状
急性胆嚢炎の三大症状は、疝痛・発熱・黄疸である。
急性胆嚢炎は、高脂肪食を摂取したあとに突然発症することが多い。脂肪を乳化させるため胆汁が分泌されるが、このため胆嚢が強く収縮することがきっかけになる。胆石が胆管を通過しようとする際に胆管が痙攣して疝痛が起こる。痛みは右季肋部に持続性の強い痛みとして出現する。
総胆管の感染症が併発すれば発熱出現する。結石が総胆管を閉塞すれば閉塞性黄疸出現する。
感染症による発熱と黄疸症状があれば胆嚢炎であり、胆石発作があれば胆石症とよばれる。
両者は根本的には同じものである。