胸痛の鍼灸診療
胸痛の鑑別診断
胸郭疾患では①胸痛部を指先で示すことができる、②体動時に生ずる痛み、という性質がある。
①②ともに満たす場合→胸郭疾患(肋間神経痛、胸郭部の筋々膜症など)
①②ともに満たさない場合→虚血性心疾患
①を満たすが②を満たさない場合→心臓神経症
痛む部位動作時、深呼吸時
鍼灸不適応→ 虚血性心疾患手掌全体で示す
痛みに増減なし
鍼灸やや適応→ 心臓神経症
指頭で示す
鍼灸適応→ 胸郭疾患痛み出現
虚血性心疾患 の鍼灸治療
虚血性心疾患に施術することは、十分な配慮を要するが、患者は現代医療
の管理下にあるならば、鍼灸治療そのものは禁忌ではない。
1.虚血性心疾患の痛みの機序
①交感神経による心臓の支配は、左T h1~T h5に関係があり、なかでも左T h1~T h3
の関与が最も大きい。この範囲内で、交感神経性デルマトームと体性神経デルマトーム
の体壁に反応が出る。
②左Th1分節に入る交感神経が強い場合には、腕神経叢を介して、とくにC8Th1支配領域であ
る左上肢尺側に放散痛をもたらすことがある。
③心臓に関係する最大の傍脊神経節は、星状神経節である。交感神経興奮の程度が強けれ
ば、星状神経節(下頸神経節)や上・中頸神経節まで興奮し、頭顔面症状を呈する。
④心臓は横隔膜隣接臓器なので、横隔膜神経を興奮させ、C3C4デルマトームやミオトーム
上、すなわち頸肩のコリや痛みを生ずる。
2.心疾患の体壁反応
心疾患により生じた胸部や上背部の筋緊張を緩めることは、心臓への悪影響を減らす役割があ
る。皮電点分布の統計では下記のようになることが報告されている。虚血部位による反応点の大きな違いはあまりないようだ。皮電点は、皮膚の交感
神経興奮度を電気的に調べる器械である。撮診は、皮神経の疼痛過敏帯を調べる方法だが、交感
神経興奮が交通枝を介して体性神経を興奮させた場合には同様の結果となると筆者は考えている。
また撮診法に熟練すれば、軽度の皮下浮腫帯の存在も把握できるので、この場合には交感神経
反応を捉えていることになるであろう。
心疾患における体壁反応は、第一義的には交感神経興奮に由来するが、針灸治療では、圧痛や
硬結反応を重視するので、二次的に生じた脊髄神経興奮による症状に重点をおくのが普通であろ
う。鍼灸の治効機序は、脊髄神経刺激→交通枝→交感神経へ影響ということで、交感神緊張の
減少にあるという説が支持されている。
治療点の選択は、心疾患であるといっても、肋間神経痛の治療と同じように、とくに体性神経
が深層から表層へ出る部の圧痛硬結に施術する。皮膚や筋の痛みを緩和することで、心臓に由来
する痛みも改善できることがある。ただし針灸で症状が軽減したからといって、心臓神経症など
の機能性の疾患だとみなす論法は通用しない。