下肢静脈瘤
1)下肢静脈の走行 下肢の静脈は表在静脈と深部静脈に分類される。血液を心臓に環流させるのに重要なの は深部静脈である。表在静脈および表在静脈と深部静脈をつなぐ穿通枝(=交通枝)は、結局 は深部静脈に流入しているが、静脈弁の故障により円滑に流入できず、静脈血が逆流すること があり、この結果、表在静脈に静脈瘤ができる。表在静脈には2つの本幹がある。 ①大伏在静脈:下腿内側と大腿内側を上行、鼡径部で大腿 静脈に流入。下肢部脾経ルート。 ②小伏在静脈:下腿後面を上行する。膝窩で膝窩静脈に注ぐ。 下腿部膀胱経ルート。 大伏在静脈と小伏在静脈はどこに注ぐか? 連想:大伏在静脈→「大」なので大腿静脈に、 小伏在静脈の頭文字は「し」なので膝窩静脈に注ぐ。 2)下肢静脈環流の機序 足から心臓に戻る血液は重力に逆らって心臓へと環流するが、静脈系の血圧は低く、静脈環 流する力はない。それを可能にしているのが静脈弁と筋ポンプ作用である。
①静脈弁:逆流を防止し、血液を一方向に流す役割。 ②筋ポンプ作用:また足を動かした時など、筋が収縮することで、深部静脈が圧迫され血液が 上方に押し上げら れる。筋が弛緩する と深部静脈は広が り、下方から血液を 引っ張り上げる。 さらに穿通枝を経由 して表在静脈からも 血液を引っ張り上げ る。 3)病態・症状 ①長時間の立位で、筋ポンプが機能しない ②表在静脈(とくに大伏在静脈・小伏在静脈・穿孔枝)の静脈弁の破壊 深部静脈は周囲の筋によって拡張が抑えられている。表在静脈は圧力上昇の影響を受けやすく、弁が壊れや すい。特に穿通枝は、深部静脈の圧力を直接受けるので弁不全が生じやすい。 ③深部静脈の還流血が表在静脈に流入し、表在静脈に異常拡大や屈曲蛇行が生ずる。 ④進行すると脚が重くなり、脚が疲れやすく痛むようになる。血管に沿って皮膚が黒ずん だり茶色になる。色素沈着や潰瘍が起こることがある。 一般に長時間の立位や夕方に悪なる。40才台の女性に多い。臥位で安静にしていると 軽快しているが、立位になって動き出すと再び悪化する。 静脈瘤と動脈瘤は無関係。動脈瘤には脳動脈瘤、胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤などがあり、その原因は動 硬化、動脈解離など。一方、静脈瘤は静脈の弁不全が原因となる。 4)下肢静脈瘤の分類 ①大伏在静脈静脈瘤:大伏在静脈はくるぶしから始まり、鼡径部で大腿静脈と合流する、体表 の中で最も長い静脈。鼠径部の大腿静脈との合流で弁が壊れて逆流がおき、それが徐々に 下腿部に広がり、下腿内側ときには大腿内側まで静脈瘤が累々と浮き出て目立ってくる。 ②小伏在静脈静脈瘤:ふくらはぎの後面を走行し膝の裏で膝窩静脈に合流する静脈で、膝窩静 脈との合流部の弁不全により逆流がおき、下腿後側に静脈瘤ができる。 ふくらはぎの静脈瘤であっても、実は脚の付け根や膝の裏に原因がある。