椎間関節性腰痛
1)病態 急性腰痛:腰を伸ばして上体を振り返った瞬間、椎間関節の関節包内にある滑膜が挟まれ、 炎症を起こす。ぎっくり腰を起こす代表的な病態である。 慢性腰痛:加齢による椎間関節の変性が基盤になり、急性椎間関節性腰痛の機序で発症する。
2)症状 脊髄神経後枝は、背腰殿部において、脊柱を起点として斜め下45°方向に下るので、症状 もこの領域に出現する。 椎間関節の刺激は、結局椎間関節関節包支配である脊髄神経後枝内側枝の興奮となって痛み を感受し、脊髄神経後枝支配領域の筋と皮膚に痛みと筋緊張をもたらす。 ※後枝内側枝は椎間関節を知覚支配する。 後枝外側枝は、多裂筋や起立筋、腰背部皮膚を運動・知覚支配する。
3)理学テスト
①椎間関節の障害を診るために a) 伏臥位にて棘突起の外方1寸(夾脊穴の外2㎝)を垂直に押圧した際の痛み(+)
②後枝の興奮を診るために b) 障害ある椎体の棘突起間、および棘突起傍の圧痛(+) c) 脊髄神経後枝撮痛(+) 大部分の症例では②が陽性化し、後述する背部一行刺針で改善する。ただし②が陰性で、 ①のみ出現する場合もあり、この場合には椎間関節深刺の方が効果的になる。 撮診法について
西洋での皮膚巻上げテストSkin rollong testに一致する。皮膚と皮下組織を手指でつまむようにして、その時の患者の訴え(痛みの有無)や検者の指の感覚で異常を調べる。健常部に比べて異常部位は、皮下組織が厚く不安定感がある。この異常を有痛帯、内臓体壁反射の一部と解釈される。健常部位はつまんでもあまり痛くはないが、異常部位は、つねられたかのような鋭い痛みを感じる。これを脊髄神経前枝・後枝の皮膚に分布する知覚神経である皮神経の興奮と考えるが、解剖学書等に描かれている末梢神経分布図とは微妙に異なるので、矛盾をかかえていることになる。ただし上記方法で撮痛を見いだし、その源流部である廃部一行に刺針することで、非常に大きな治療効果が得られることは、針灸治療の方法としては実用的な意味がある。
椎間板性腰痛
1)病態 前屈時や、腰をかがめ、不用意に重量物を持った瞬間、椎間板内圧が瞬間的に高まり、元々から変形していた椎間板線維輪に亀裂が入る。これにより脊髄神経前枝から分岐し、線維輪に付着している椎骨洞神経(=脊椎洞神経。旧名称は、脊髄神経硬膜枝)が刺激を受ける。椎間板の線維輪は、本来知覚がないが、過度の負荷などで線維輪に変性が生じると、神経線維が椎間板の線維輪外層まで入り込んでくる。
2)症状 ギックリ腰の最多原因であるとする見解や、慢性腰痛の40%が本症との見解もある。若年者(とくにスポーツにおける繰り返しの負荷)中高年の腰痛ともにみられる。正中線付近の痛みを訴える。神経根症状ないが、脊髄神経前枝刺激として、下肢症状を伴うことも多い)
3)マッケンジーMcKenzie 法 前屈時すると、椎間板内の髄核が後方に移動し、線維輪後方が後方に突出することで、脊椎洞神経を刺激する。このような場合、マッケンジー法が適応になる。すなわち「上体反らし」10回を1セットとし、治療室内では2セット、自宅では4セット程度を毎日行い、髄核の位置を戻すことで脊椎洞神経の圧迫を回避することを試行する。 腰痛に対する「上体反らし」は、これまで禁忌とされていた。しかし椎間板性腰痛に限り、適応があ る。脊柱管狭窄症にも試みられている。マッケンジー法を行うにつれ、それまで足などの末梢にあった痛みやしびれが、腰の中心に移動していくことがある。これを「痛みの近位化」とよび、治療過程で改善に向かっていることを知る一つのサインになる。痛みの遠位化は、マッケンジー法の適応外または方法の誤りを示唆している。骨粗鬆症に対するマッケンジー法は禁忌である