移植説(月経逆流説)
月経のたびに子宮内膜で生じた月経血は、子宮頚部から膣へ流出するが、出産経験のない者の子宮頚部はきつく閉じており、月経血は卵管へ逆流しやすい。卵管の一方は腹腔に開口しているので、少しは腹腔に月経血が流れこむ。その血中に子宮内膜の細胞が含まれ、どこかに付着して生育する。子宮内腔面を覆うべき内膜組織が子宮筋層、卵巣、ダグラス窩、腹膜などに存在すると、その一部が月経と一致して出血する。多産や年少出産の者など、子宮頚部が緊張していない者は、月経痛は起きにくく、子宮内膜症にもなりにくい。
3)症状
①主症状:月経時の下腹部痛・腰痛・性交時痛・不妊症 月経終了時に症状消退
性交痛の理由:子宮裏側の下部にできた子宮内膜症では、性交時にこの部が押圧されて痛む。
②卵巣嚢腫や腹腔内癒着を合併する。※腹腔内癒着が手術を困難にしている。
③チョコレート嚢腫:卵巣内で子宮内膜細胞が増殖すると、古い月経血が貯留し、
内容液がチョコレート色になるので、こうよばれる。
4)治療
とりあえずは月経を止める。月経を止める治療薬としては、抗ゴナドトロピン放出
ホルモン剤(視床下部に作用して、視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホル
モンと拮抗させる)を使用。更年期はホルモン補充療法(経口避妊薬など)。
妊娠することは問題がないが、本症による不妊症は3割を占める。
卵巣嚢腫の合併や癒着が強い場合は、手術療法(子宮全摘または患部の部分摘出)。
4. 卵巣嚢腫と卵巣癌
1)卵巣嚢腫と卵巣癌の形態について
嚢胞腫とは、腫瘍の中に嚢胞(袋構造)があって、その中に何か液体成分が溜まっている腫瘍のことをいう。一方、嚢胞の中の成分が充実性(=固体性)のものをいう。卵巣嚢腫にはこの2タイプがある。
卵巣癌とは卵巣にできる悪性腫瘍であるが、必ず個体性である。すなわち卵巣の充実性腫瘍には、卵巣嚢腫の一部と卵巣癌がある。卵巣の腫脹原因が、液体性であることが分かれば、少なくとも卵巣癌を否定できる。卵巣は母指頭大が正常だが、本症では鶏卵大以上になる。
卵巣嚢腫
多い:嚢胞腫(液体性)
少ない:嚢腫(良性腫瘍)
卵巣癌: 悪性腫瘍
充実性腫瘍
2)症状
若年者には良性が、中年以降は悪性が多い。卵巣癌は多くはないが、早期発見しに
くいこと、腹膜に転移しやすいことなどで、死亡率は高い(治癒率3割)。
①小さい場合:卵巣は沈黙の臓器である。卵巣嚢腫も卵巣癌も、初期であれば無症状。
卵巣機能低下もなく月経も正常。やや大きくなれば腹部腫瘤を触知することがあ
る。通常検診で発見される。開腹検査しなければ、厳密には両者を区別できない。
②大きい場合:大きくなれば、腫瘍の卵巣実質の破壊などにより不正子宮出血。
③卵巣茎捻転:卵巣が大きくなると、重さで骨盤底に垂れるようになり、卵巣と子宮
を結ぶ靱帯が「く」の字型になる。この状況で卵巣が捻転すると茎部も捻転し、
突然、虚血性の下腹部激痛が発生する。(急性腹症→緊急手術を実施)
3)現代医学的治療
良性腫瘍と確認できれば子宮筋腫と同様に経過観察する。大きくなるようであれば
患側の卵巣嚢腫の摘出をする。閉経前に卵巣をとると、卵巣欠落症候群(卵巣ホルモ
ンの欠乏による強い更年期症状)が術後2ヵ月目位から生じ、2~4年続く。