2)下耳痕穴刺針の術式
①体位:仰臥位で顔を健側に向ける。耳垂が頬面に付着する基部の後方中点を取穴する。
②刺針:針は茎状突起の前方を通過し、直刺2㎝。耳中に放散痛を得る。
②意義:舌咽神経の枝の鼓室神経は、中耳~鼓膜の知覚を支配している。舌咽神経ブロックは、中耳性の痛みに効果がある。加えて耳中に響く部多数に長時間置針(30分間以上)をすると、一種の玉突き効果で、内耳の血流改善に影響を与えると考えたこともあった。しかし症例を重ねると、効果の乏しいこと予想以上で、この考察の信憑性が揺らいだ。
結局、耳奥に響いた針響が、耳周囲の筋緊張緩和のきっかけを与えたに過ぎないのだろう。
6.顎関節症に付随した耳鳴の鍼灸治療
口を大きく開いたり、下顎を横にずらしたり、舌を強く前に出した時など、耳鳴の音調が変化するのであれば、顎関節症による耳鳴が考えられる。患者の中には、耳鳴を主訴とし、顎関節症であることを気づかない者もいる。
口腔外科領域では、1930年代に「奥歯が抜けると顎が後退し、耳の受容器を刺激して耳鳴が起こる」という報告後、顎関節症と耳鳴の関係が指摘されていた。
「咬筋のトリガーポイントは耳鳴りを起こすが、聴力の低下は起こさず、胸鎖乳突筋は耳鳴りを伴わない聴力の低下を起こす。また咬筋を押すと音程が変わったり音の質が変わることがある」と、トラベルは記している。
要するに、咬筋、外側翼突筋、顎二腹筋、胸鎖乳突筋などの筋緊張を緩めることが顎関節症の治療に関係し、耳鳴治療にもなるということである。
「無難聴性耳鳴を伴う顎関節症には患側下顎頭の回転半径の小さい捻れを示唆する運動論的特徴がうががわれる。下顎頭の捻れによる関節包の侵害刺激が三叉神経節から上オリーブ核へと投射する可能性が示唆」これは顎関節包に加わる歪みが耳鳴を生ずる可能性のあることを述べている。
1)外側翼突筋上頭筋付着部への刺針
正常な関節円板は、下顎頭につきズレることはない。ただし外側翼突筋上頭は、顎関節の関節円板に付着し、開口に応じて、関節円板を前方に移動させる力を生む。関節円板の前方へのズレを防止しているのが、円板後部組織である。何らかの原因で、関節円板の位置がずれる原因の一つに、外側翼突筋上頭の過緊張があるかもしれない。
外側翼突筋上頭へ刺入するには、客主人を刺針点とし、針先を耳門(顎関節部)方向に斜刺