4.難聴・耳鳴の治療
①難聴・耳鳴の治療は同一である。後頸部で耳周辺の穴位へ刺針して、首の血液循環を改善して、耳深部への血行や脳への血行を改善することで、間接的に状態を改善しようとしている。
②一般に難聴の効果は早く、一回の治療で聞こえるようになることが多い。3回も治療すれば、完全に元どおりに戻る。難聴では発病5年以上経過した例では治らない場合もでてくる。しかし耳鳴は年数がたっていても、まず治る。
③効果を得るためのコツ
a.両耳性ならば、伏臥位で両側に、片側の耳が悪いだけならば横向きで刺針。
b.項針穴(翳風、風池、完骨など)への針は、刺入したとき、耳の中にズシンと響くような感じが発生させねばならない。コリが頸部全体に及んでいれば、後頸部穴(百労、下百労、治喘)への刺針を追加する。
百労:奇穴。大椎穴の上2寸、外方1寸。C5C6棘突起間の外方1寸。
c.3番以上の太さの針。2寸針使用(寸3では奥の筋肉まで届かない)し、骨に当たって針が止まるまで刺入する。
d.陳久性の場合、置針時間は40分ぐらい必要。10分程度の置針では効果がない。
5.末梢神経刺激による耳鳴りの針灸治療
1)下耳痕穴(舌咽神経刺針)
置針が40分間という点と、「耳中にズシンとひびくような感
じ」に注目。実際に耳周囲や後頸部に刺針しても、耳中に響かせることは難しい。そもそも響くということは、知覚神経を刺激しているのだろうが、内耳には知覚神経がないので、「響くとすれば中耳の鼓膜から鼓室に分布する知覚神経のことだろう」と考えて舌咽神経を思い浮かべた。要するに中耳知覚を刺激し、玉突きの原理で内耳の血流を増加させることを狙いとするものである。舌咽神経を刺激するには、ペインクリニック科では舌咽神経ブロック点を用いるが、鍼灸の針で、このブロック点を刺激しても、舌奥や咽頭への針響が得られにくい。ベル麻痺患者に対しては、下耳痕穴刺針パルス通電を常用している(この下耳痕穴から2㎝前後深刺すると、しばしば耳中に響くことを経験。
耳中疼痛の一本針として、完骨移動穴刺針のこと、この穴は下耳痕穴に近い位置にある。そこで患者に対し、意識的に下耳痕から深刺すると、耳中に響きやすい傾向がみられた。「難聴穴」と称しているものが、下耳痕穴とほぼ一致する位置にあること。「耳たぶ上下端を合わせるように横に2つに折って、その頂点にあたる側頭部にとる。半米粒大灸7壮+完骨+少海」